- 1・「世田谷区史編纂問題」を偶然知った
- 2・安易に著作権譲渡&著作者人格権の不行使を提示される問題は、イラストレーターだけの問題ではなかったのかと驚いた
- 3・独占禁止法違反の可能性があるのでは?(2022/12/27修正・追記)
- 4・いま私が住んでいる神戸市では、「著作権譲渡なしにできる上書き書面」が存在するみたい
- 【2023/2/21追記】著作権アンケートをやっています(2/28まで)
- 【記事が出るたび追記】この件について報道が出ています。
- 【2023/3/9追記】専門家による解説記事が出ています。
- 【2023/3/20追記】出版ネッツから声明が出ました。
- 【2023/3/22追記】参考:静岡県主催のフォトコンの応募規約がひどい件
- 【2023/3/27追記】出版ネッツが文化庁に要望書を提出
- 【2023/4/10追記】世田谷区議員が本件に対する保坂区長の態度を批判
- 【2023/4/19追記】国会でも言及されたようです。
- 【2023/5/29追記】出版ネッツによる世田谷区史編纂問題のブログができました。
- 【2023/5/29追記】「歴史研究と著作権法」シンポジウムが開催されます。私も登壇します。
- 【2023/7/18追記】シンポジウム「歴史研究と著作権法」のまとめを作りました。
- 【2023/7/24追記】シンポジウム「歴史研究と著作権法」出版ネッツによるまとめ
- 【2023/8/2追記】出版ネッツ、世田谷区を相手取り、東京都労働委員会に不当労働行為救済の申し立て(2023年4月〜)
関係性明示:私は2024年1月から「世田谷区史編さん問題を考える区民の会」(現:「世田谷区史のあり方を考える会」)に入っていましたが、2024年3月2日に退会しております。
1・「世田谷区史編纂問題」を偶然知った
最近、偶然、Twitterで流れてきて、「世田谷区史編纂問題」の存在を知りました。
私は今は夫の転勤で、兵庫県神戸市に住んでいるのですが、2020年春まで東京都世田谷区に住んでいました。
元世田谷区民として、この問題に関心を持ちました。
かなりザックリ言うと、世田谷区が、世田谷区の歴史を冊子にまとめるにあたり、自分たちの杜撰な仕事をごまかすために(?)、研究者や専門家に対して、著作権譲渡&著作者人格権不行使特約を強要しているという問題です。
togetter.com
これはどういう問題なのかを、簡単に説明します。
1・2017年、世田谷区が、世田谷区の歴史を「世田谷往古来今(おうこらいこん)」という小冊子にまとめた。しかし、一部の研究者の執筆部分が、校正指示に従っておらず、内容の改変もされていた。
kaken.nii.ac.jp
2・2019年、「世田谷デジタルミュージアム」に、「世田谷往古来今」などに掲載した資料や文章が無断転載されていることが発覚する。
www.sankei.com
3・今年(2022年)、世田谷区政90周年区史の編纂にあたり、区は、執筆者の方々に、著作権譲渡と、著作者人格権の不行使を求める方針であることがわかった。
しかも、区は今回「著作者人格権不行使を含む契約書にサインしない方には執筆させない」という姿勢だそう。
2・安易に著作権譲渡&著作者人格権の不行使を提示される問題は、イラストレーターだけの問題ではなかったのかと驚いた
私の仕事である、イラストレーションの仕事でも、既存のメディア企業以外、IT企業等の契約書では、著作権譲渡・著作者人格権不行使が入った契約書が入ってくる事が増え、困惑しております。
しかも、そういう契約書を出してくる法務担当者は、著作権法への理解がなく、
かつ、そのことで、何が起きるのかを全く考えていないんです…
↓著作権と著作者人格権については、こちらの記事に詳しいです。
petitmatch.hatenablog.com
こちらのまとめ
togetter.comを読んで、これはイラストレーターだけの問題ではなかったのかと、驚きました。
↑この動画も見ました。
世田谷区の職員の説明は、
「著作権譲渡と著作者人格権不行使を一方的に執筆者に強要する」ということを言っているにすぎず、何の説明にもなっておらず、ひどいと思いました。
「読みやすい郷土史の読み物を作ること」「区が発行するものであること」は、
執筆者の著作権譲渡&著作者人格権不行使が必然となる理由の説明になっていないように思いました。
単純に「何でも自由に使えるようにしたいから」なのではないか
という印象を受け、それならその意志を伝え、そういう契約にすればいいのに…と思いました。
しかも今回の経緯(そもそもの区史が間違いだらけ、無断使用の前科アリ)からも、
著作物の扱い自体が、非常に粗雑に感じます。
ですので、本来的には、著作権譲渡契約どころでなく、利用許諾契約であっても使用範囲については明確にすべきであり、著作者人格権も行使できるようにしておくべきと考えます。
世田谷区職員は、単純に知識不足のように思いますが、それにしても極めて失礼であると思いました。
しかし桃野芳文議員は、出版社等での著作物契約実務を理解しておられるようで、そこは救いだと思いました。
★著作権をよく知らない人のために解説:著作権譲渡&著作者人格権不行使の契約をするとどうなるのか
*著作権譲渡というのは、この件の場合、世田谷区に対して執筆者の執筆物の経済的権利を全て譲り渡すということです。その後、執筆者が自分で自分の執筆物を使いたいと思っても、世田谷区の許可がなければ使えなくなります。
*著作者人格権不行使というのは、この件の場合、世田谷区に対して著作者人格権を行使するなという契約です。著作者人格権には公表権・氏名表示権・同一性保持権があり、この場合、同一性保持権が使えなくなることが最大の問題で、執筆者が書いた文章を世田谷区が自由に書き換えることができるようになります。しかも氏名表示権を行使できないと、氏名表示なし、または世田谷区が自由に書き換えた文章を執筆者の名前で出すことが、契約上可能になってしまいます。
世田谷区史の執筆の仕事は、歴史の専門家や研究者がされているようですから、著作権譲渡をしたり、著作者人格権不行使特約を結んでしまうと、研究者や専門家にとっては、今後の研究・執筆活動に支障が出るように思います。
さらに、世田谷区には「前科」があり、以前のように間違いだらけの文章を執筆者の名前で公表した場合、執筆者の専門家・研究者としての信頼度が低下してしまいます。
このような場合、みなし著作者人格権である「名誉声望保持権」の侵害になるようにも思うので、さすがに著作者人格権の不行使特約自体が、公序良俗違反で無効になるような気もしますが…
↓ご参考
★著作権譲渡&著作者人格権不行使の契約をするとどうなるのか の実例が示された、著作権に詳しい弁護士・河野冬樹先生のツイート(2022/12/19追記)
著作権譲渡、著作者人格権不行使の危険性の好例で、某法律事務所の広告漫画で、万引きなどの微罪で捕まったけれども早期に熱意ある弁護活動で起訴猶予になったというストーリーを描いたら、それが改変されて使いまわされ、レイプや強盗までしたのに同じようにハッピーエンドになってたというケースが。
— 弁護士 河野冬樹 (@kawano_lawyer) 2020年6月9日
今回の例でいうと、「著作権譲渡&著作者人格権不行使」の契約をしてしまうと、こういった「内容の大幅な書き換え」が、世田谷区によって行われることを承諾するという意味合いがあります。歴史の冊子なのに、そんな適当なことで良いんでしょうか?
3・独占禁止法違反の可能性があるのでは?(2022/12/27修正・追記)
ちなみに、著作権に限らず、本件のように知的財産権の譲渡を強要することは、
国が出しているガイドラインの中でも「独占禁止法・下請法上問題となる」と明記されていました。
「フリーランスとして安心して働ける環境を
整備するためのガイドライン」(内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省)が昨年出ていました。知的財産権の取り扱いにも言及がありました。
https://www.meti.go.jp/press/2020/03/20210326005/20210326005-1.pdf
P9、3 独占禁止法(優越的地位の濫用)・下請法上問題となる行為類型
「(6)役務の成果物に係る権利の一方的な取扱い」の部分で、
「(優越的地位の濫用として問題となり得る想定例)」として、
「取引に伴い、フリーランスに著作権等の権利が発生・帰属する場合に、これらの権利が自己との取引の過程で得られたことを理由に、一方的に、作成の目的たる使用の範囲を超えて当該権利を自己に譲渡させること。」
とあります。
下請法適用外の企業であっても、不必要な著作権譲渡は、独占禁止法上で問題となり得るようでした。
【2022/12/27修正・追記】
元世田谷区民なのに、全く知らなかったのですが、この世田谷区史は、市販されているものだそうです。
www.city.setagaya.lg.jp
地方自治体の案件は、基本的には下請法および独占禁止法の対象にはなりませんが、
「事業活動を行っている場合」には、独占禁止法の対象になります。
Q3 独占禁止法は,国や地方自治体にも適用されることがあるのですか。
A. 独占禁止法は,事業者又は事業者団体の行為を規制する法律です。したがって,国や地方自治体が事業活動を行っている場合には,独占禁止法上の事業者として規制対象となります。
この「事業活動」というのは、具体的に何を指すのか?というのを公取委に確認したところ、
→水道事業など「採算性のある事業」を指す。
行政行為は「事業」ではない。「税金」ではない料金を得て自治体が対価を得るとき「事業」という。
行政行為として「調達」しているかどうか?「調達」したものは「事業」ではない。
という回答でした。
この「世田谷区史の販売」は、"「税金」ではない料金を得て自治体が対価を得るとき"に該当しているように思います。
となると、上記の独占禁止法違反(優越的地位の濫用)の事例にドンズバで該当するのでは…?
4・いま私が住んでいる神戸市では、「著作権譲渡なしにできる上書き書面」が存在するみたい
私がいま住んでいる神戸市での契約事例について調べてみたところ、神戸市では、なんと基本契約約款に、はじめから著作権譲渡と著作者人格権不行使が入っていました。
委託契約約款 (R3.4.1) - 神戸市
https://www.city.kobe.lg.jp/documents/49956/4_yakkann_1.pdf
しかし、案件によっては、この約款を上書きする書面等を使うなどして、著作権譲渡と著作者人格権不行使を回避できる場合もあるようです。
参考:令和4年度神戸市WEBサイト「Kobe Creators Note」記事制作・情報発信及び保守運用業務の委託事業者の募集(アーカイブ)
ちなみに、東京都世田谷区の基本約款には、知的財産権の移転の項目はありません。
そのため私は、東京では著作権譲渡なしで契約がされているんだと、思いこんでいました。(ちなみに渋谷区の基本約款にもないです)
https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/kusei/009/004/d00123227_d/fil/itaku20200401.pdf
www.city.setagaya.lg.jp
本件を知り、まさか東京でこんなことが と、非常に驚愕しました。
今後、適切な契約がされるよう、願っております。
また、この問題について、注視していきたいと思います。
【2023/2/21追記】著作権アンケートをやっています(2/28まで)
青山学院大学の谷口雄太先生が、自治体史の執筆や、自治体が発行する冊子の制作などの仕事を請けたことのある方、および著作権問題に関心のある方を対象に、著作権に関するアンケート調査を行っています。
読むだけでためになる、とても良いアンケートです。
著作権に興味がある方なら誰でも回答できます。ぜひご協力を!
【2023/3/27追記】著作権アンケートの結果が出ました。
著作権アンケートにご協力頂きありがとうございました。結果が出ました。
結果としては「著作権譲渡や人格権不行使、さらにその両方を求める自治体は通例ではない」ということだったので、ちょっと安心しました。
アンケート結果は、文化庁の著作権課にも送付されるようです。
【記事が出るたび追記】この件について報道が出ています。
朝日新聞(2023/2/28)
区側の依頼について、谷口氏は「執筆者の署名が入っているにもかかわらず、行政が無断で都合のよい内容に書き換えることが可能になる。区史で歴史修正ができてしまう懸念がある」と主張。懸念の背景について、同事業の一環で17年に冊子「世田谷往古来今(おうこらいこん)」を作った際に「無断で区側に800カ所近くを修正された」と訴える。
東京新聞(2023/3/8)
専門家は「発注者が当然に著作権の譲渡を受けられるわけではなく、事前によく協議すべきだった」と苦言を呈す。
(中略)著作権に関する著書が多い一級知的財産管理技能士の友利
昴 さんは「自治体の要望に沿って制作するPR誌と違い、史誌は執筆者個人の研究成果、人格が強く反映される。著作権を自治体側が持つのは納得を得にくい」と指摘。「譲渡の交渉自体は問題ないが、編さんが始まる前にするのが筋。区側の著作権に関する意識が低かったと言わざるを得ない」と話した。
(中略)20年に区史を発行した港区は、事業開始時に著作権の譲渡を持ちかけたが、区側の改訂を懸念する執筆者側が反対し断念。担当者は「転載や引用のみ、許可なく区が判断できることで合意した」と説明した。
*ちなみに↑の東京新聞の記事への補足ですが、契約書がない場合は、著作権は執筆者にあります。
NHK(2023/3/29)
ついにNHKでも報道されました。
谷口准教授は「執筆者にとって無断の書き換えは極めて問題だ。名前を記す以上、学者の信頼に関わる。修正したければきちんと合意を取るべきで、著作権の譲渡と人格権の不行使を安易に求めるのは不誠実だ」と話しています。
東京新聞(2023/4/3)
東京都世田谷区が新たな区史の編さんを巡って執筆者全員に著作権の譲渡を求めた問題で、区は反対していた青山学院大の谷口雄太准教授に執筆させないことを決めた。(中略)区によると、執筆担当の大学研究者や区内外の学芸員ら41人のうち39人が、著作権譲渡の承諾書を提出。残る1人は、他の仕事を理由に辞退した。24年からの発行開始の予定は変えないが、谷口氏に代わる執筆担当者は決まっていない。(原田遼)
な、なんだって〜!!
というか他の執筆者、大学研究者もいるのに著作権譲渡、著作者人格権の不行使を承諾するというのが私には理解できません…
自分の研究実績として名前が残るものなのに、区による書き換えOKにするって??
この契約条件では執筆者が「使い捨てライター」にされることと同義だと思うのですが。著作権譲渡とか著作者人格権不行使の意味を理解できなかったのかな…としか思えません…
TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」(2023/4/10)
www.tbsradio.jp
↑の東京新聞の2本の記事を、記者とパーソナリティと記事コメントに出ていた友利さんが解説するというものでした。かなりわかりやすい解説で、問題点も明確に語られていました。
週刊金曜日(2023/8/4)
www.kinyobi.co.jp↑これは私も登壇していたシンポジウムについての記事なのですが
私の部分は全カットされている…ガビーン(中脇さんの次に話しました)
地方史情報 163号(2023/9/1)
後記に、シンポジウム「歴史研究と著作権法」について記載されています。
"著作者人格権不行使特約を強要されそうになったイラストレーター”が私です。
http://www.iwata-shoin.co.jp/local/local-info_163.pdf
【2023/3/9追記】専門家による解説記事が出ています。
弁理士・伊藤大地氏(2023/3/8)
素晴らしい記事!自治体職員の方はもちろん、企業法務で著作権契約を行う方にもぜひ読んでいただきたいです。
この記事では、本件の解説のほか、著作権譲渡・著作者人格権不行使特約を「契約書の決まり文句のような格好で」入れておくこと自体がトラブルの種となることや、譲渡の相手が自治体の場合、行政財産管理の点で問題となり得る点が指摘されています。
伊藤氏は、元自治体職員ということです。
【2023/3/20追記】出版ネッツから声明が出ました。
出版ネッツでは、世田谷区史編さんにおける「著作者人格権の不行使」問題についての声明を発表しました。https://t.co/txVfqxxcnc pic.twitter.com/5CCJWhSGNJ
— 出版ネッツ (@union_nets) 2023年3月20日
こうした自治体史の編さん・執筆には、任期付きの研究員や大学院生が業務委託を受けてあたることも少なくありません。自らのあずかりしらぬところで原稿が勝手に書き換えられるおそれがあり、さらには権力による「歴史修正」へもつながりかねない「著作者人格権の不行使」を条件に契約を交わすことが一般化するとすれば、そのような若手研究者の自由闊達な調査・研究活動を委縮させ、学術研究の未来にさえ悪影響を及ぼす可能性があります。
専門家をないがしろにする区の対応には、区議会議員、研究者、マスコミからも疑問と批判が相次いでいます。組織に属さない著作権者の権利を守ってきた私たちも看過できません。専門家と行政が協力してより良い区史を刊行するためにも、立ち止まって再考することを区に強く求めます。
【2023/3/29追記】声明への賛同者を募集
※引き続き、この声明への賛同者(団体・個人)を募ります。団体・個人で賛同してくださる方(HPでお名前公表可の方)は、以下まで、お名前と職業(職能)を書いてご連絡ください。
第二次締め切りは、4月末です。よろしくお願いします。
【担当者連絡先】 sugimura09@union-nets.org
【2023/3/22追記】参考:静岡県主催のフォトコンの応募規約がひどい件
この静岡県主催のフォトコンの話は、「行政による著作権没収&人格権不行使」のように受け取る方もいるようです。
しかし、フォトコンはあくまで、写真を撮った人が「自分から」応募するものなので、厳密には著作権譲渡の「強要」ではなくて、「無知な一般の人が、意図せず権利を取られる」というもので、しかも仕事でもないので、世田谷区史編纂問題とはまた違うもののように思います。
しかしながら、「地方自治体で起きた問題」「担当者が著作権に無知であることで起きた問題」であることは共通しており、自治体による著作権絡みの事件として、参考までにリンクしておきます。
今後の自治体史執筆契約についても、歴史学会側で、写真著作権協会のガイドラインみたいに、モデル契約書を作って、サインするだけにして用意したほうがいいかもしれないなと思いました。
【2023/3/27追記】出版ネッツが文化庁に要望書を提出
「自治体史編さんに係る著作権取扱いについての要望」を文化庁著作権課他に提出しました。
世田谷区史編さんでの著作権の取扱いの問題点、著作権アンケートの示唆を踏まえ、3月27日、出版ネッツは文化庁に対し、①文化庁ガイドラインの遵守の周知、②相談窓口の設置、③当事者、関係団体からの情報提供等によって把握した問題事例について、事実関係を照会し、必要な場合には注意喚起等を行うこと、を要望しました。
(2023/4/19追記 文化庁からの回答)
1.自治体刊行物の編さんを含め自治体が発注者となる公契約においても、ガイドラインの遵守が求められることを自治体に周知してください。
→(一般論だが)文化庁ガイドラインの周知が十分でないことは認識している。今後も周知に努める。
→芸術家等実務研修会などを開いたり、文化庁のHPで著作権・契約書に関するテキストや動画を公開しているので、活用してほしい。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/kibankyoka/kenshukai/index.html2.ガイドラインの遵守のための相談窓口を常設にするとともに紛争解決機関(ADR)の開設を検討してください。
→令和4年度事業として相談窓口を開設していたが、終了した。今年度も夏ごろから開設する予定。
→常設の相談窓口については、予算の関係もあり、実現はできない。今後、状況を見ながら検討していきたい。
3.当事者、関係団体からの情報提供、相談、報道その他によって貴庁が把握された問題事例について、当該自治体に事実関係を照会し、必要な場合には「芸術家等が協議・交渉しやすい環境を整備していく」ための情報提供、注意喚起等を行ってください。
→文化庁ガイドラインは、法的拘束力もないことから、個別の問題について照会・調査・注意喚起などをすることはできない。
→【「同じく法的拘束力のないフリーランスガイドラインについては、公正取引委員会の窓口で相談を受け付けることになっているが」との質問に対し】フリーランスガイドラインは、下請法や独禁法などベースになる法律があるからではないか。
→【「現に世田谷区では、ガイドライン違反が起きていて被害を被っているのに、どういう救済措置があるのか」という質問に対し】文化庁にはそういう仕組みがない。相談先としては、フリーランス・トラブル110番が考えられる。
→そういう具体的事例があるということは承った。文化経済・国際課だけでなく、著作権課にもインプットされている。具体事例についての情報収集はしている。この「要望」も今後の参考にさせていただきたい。
私個人の経験では、フリーランス・トラブル110番は著作権契約に関しては「ほぼ素人」に近く、文化庁の相談窓口についても、残念ながら同様の印象を受けました。
今後の改善を期待したいところですが…しかし文化庁の「常設の相談窓口については、予算の関係もあり、実現はできない」という回答は衝撃的でした。
↓参考記事
【2023/4/10追記】世田谷区議員が本件に対する保坂区長の態度を批判
桃野芳文議員[無所属](2023/4/5)
区長は一体どのように解決しようというのか。これを読んでも全くわかりません。区長自身が述べていますが、区長はかつて、フリーライターという立場で暮らしていた時代が長く、その際は、雑誌社側が文章の書き換えどころか見出しの修正をすることすら、憤りを感じていたよう。
それが立場が変われば、今度は「文章を自由に書き換える権利をこちらに渡さないなら仕事はさせない」という強硬な態度を貫くのですね。ひどい話です。
「一番良い形での解決を望んでいる」というのは誰でも言える言葉であり、いわば傍観者の言葉。この問題の当事者であり責任者の区長がこんな態度では、区トップとしての資質が問われる事態です。現区長には、今目の前にある課題を解決しようというリーダーシップを微塵も感じません。
ひえしま進議員[日本維新の会](2023/4/9)
世田谷区は谷口准教授に執筆させないことを決定し、排除。元締めの保坂区長は「一番よい形での解決を望んでいる」と傍観するだけ。これが、表現の自由を掲げる“自称”ジャーナリストの実体である。
【2023/4/19追記】国会でも言及されたようです。
1.4月5日内閣委員会で、フリーランス新法に関して
衆議院インターネットライブラリー
(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案(211国会閣23)井坂信彦議員(立憲民主党)は「成果物の権利(著作権など)の一方的取り扱い」を禁止事項に入れるべきではないか、と質問しました。
これに対し、後藤大臣は、「二次利用の対価を支払わないなどは、『不当な経済上の利益提供』にあたり、これはフリーランス新法で禁止している」と答弁。改正されるのは、著作権管理団体の著作権料の分配に関することですが、この委員会では、著作権をめぐって、公平な利用と著作権者の保護との“バランス”についての質疑応答が繰り広げられました。
衆議院インターネットライブラリー
(著作権法の一部を改正する法律案211国会閣51)1h24m45sのあたりから、森山浩行議員(立憲民主党)が、著作者人格権不行使について、質問しています。
その事例の一つとして「学者が書いた原稿が趣旨と違う形で載せられるという事件が起きている」という発言をしています。これは、世田谷区史編さんの事例です。
これは余談ですが…上記の後藤大臣の答弁で、「二次利用の対価を支払わないなどは、『不当な経済上の利益提供』にあたり、これはフリーランス新法で禁止している」とあるのですが、これは実はフリーランス新法を待たずとも、既に下請法・独占禁止法上で禁止されているように思います。しかしフリーランス新法でより明確にされるならば、より良いと思います。
*「コンテンツ取引と下請法」パンフレット参照:
https://www.jftc.go.jp/houdou/panfu_files/contentspamph.pdf
【2023/5/29追記】出版ネッツによる世田谷区史編纂問題のブログができました。
setagayakushi-chosakuken.hatenablog.com
【2023/5/29追記】「歴史研究と著作権法」シンポジウムが開催されます。私も登壇します。
【2023/7/18追記】シンポジウム「歴史研究と著作権法」のまとめを作りました。
この時のスライド資料を公開しました。(2024/2/10)
【2023/7/24追記】シンポジウム「歴史研究と著作権法」出版ネッツによるまとめ
setagayakushi-chosakuken.hatenablog.com
【2023/8/2追記】出版ネッツ、世田谷区を相手取り、東京都労働委員会に不当労働行為救済の申し立て(2023年4月〜)
労働委員会とは「労働組合と使用者(会社)との紛争解決のお手伝いをするところ」ということです。
フリーランスでも労働組合には入れます。
会社員、会社の場合は「労働争議の調整」を申請することとなり、
フリーランスの場合は「不当労働行為の審査」を申立てすることになるようです。
出版ネッツ(正式名称:ユニオン出版ネットワーク)は、出版関連産業で働くフリーランスの労働組合です。
谷口先生は出版ネッツの組合員ですので、出版ネッツが、世田谷区を相手とし、東京都労働委員会に不当労働行為救済の申し立てを行ったということです。
今までの流れ(出版ネッツブログの内容からまとめ)
setagayakushi-chosakuken.hatenablog.com
2022年11月 谷口氏の組合加入を世田谷区に通知
2023年2月初め 世田谷区、「話し合いに応じる」と回答
2023年2月10日 話し合いの日程調整を行っている中、世田谷区から「著作権譲渡契約書」締結の「承諾書」が提示される
2023年2月28日 世田谷区との話し合い
2023年3月末 谷口氏、区史編さん委員を解任される
2023年4月14日 出版ネッツ、世田谷区を相手取り、東京都労働委員会に不当労働行為救済の申し立て
2023年4月5日、4月21日 出版ネッツ、世田谷区に団体交渉の申し入れ(世田谷区は拒否)
2023年6月27日 東京都労働委員会による第1回調査
2023年7月21日 出版ネッツ、世田谷区に団体交渉の申し入れ(3回目)
setagayakushi-chosakuken.hatenablog.com
2023年9月1日 東京都労働委員会による第2回調査
setagayakushi-chosakuken.hatenablog.com
2023年10月6日 出版ネッツ、世田谷区の区長室秘書課と政策経営部に申し入れ
本年4月にはフリーランス新法が成立し、法律の中に「ハラスメント対策を講じること」が盛り込まれました。こうしたフリーランスの権利を守っていく流れに逆行する「基本方針」改悪に、強く抗議します。
なぜフリーランス(業務委託従事者)を排除する改悪をしたのか、かつてフリーランスライターであった保坂区長の見解をお聞かせください。
2023年11月6日 東京都労働委員会による第3回調査(予定)
今後も注視していきたいと思います。
このブログは、知的財産権に関する情報を発信するグループ「Yuroocle」に加盟しています。