本日、「『生成AIを巡る競争』に関する情報・意見の募集について(公正取引委員会)」に意見を提出しました。
私はイラストレーターなので、イラストレーターとしての意見となってしまいますが…
少しでも、ご自身で意見提出される方のご参考になればと思います。
もし「賛成!」と思っていただけた部分があれば、その部分はどうぞご利用ください。
私が提出した意見
私は「第4」にのみ意見を書きました。(そういう提出の仕方もできます)
第4 おわりに(公正取引委員会の今後の対応)
1. これまで本ディスカッションペーパーが触れていない事項で、生成 AI 関連
市場(インフラストラクチャー、生成 AI モデル、生成 AI プロダクト)の現
状などについて公正取引委員会として注視すべきことはありますか。
私は、フリーランスイラストレーターとして、20年以上の経験がある者です。
以下、実際の経験や、職業的知見を元に述べます。
本ディスカッションペーパーは、全体に「生成AIを開発する事業者」や「生成AIを活用するクリエイターやアーティスト」など、「生成AIの利用者」の利益を最大化する立場で書かれており、「学習データの供給元となる人間」からの観点が『一切ない』という印象を受けました。
学習データとなる著作物を作っている人間がいる、データを作るのも人間である
という前提認識がないのではないでしょうか。
「学習データの供給元となる人間」にも利益(経済的利益)を還元するべきであり、そういった観点からの検討もされるべきであると考えます。
シカゴ大学では生成型人工知能 (GenAI) の侵入的使用から人間のクリエイターを保護することを明確な目標として、技術ツールを開発する研究プロジェクト「Glazeプロジェクト」が立ち上がっています。
https://glaze.cs.uchicago.edu/aboutus.html
2. 生成 AI 関連市場における独占禁止法・競争政策上の論点について、本ディスカッションペーパーで取り上げた論点以外に考慮すべき論点はありますか。
発注者側が無償、または同種・類似のイラストの一般的な対価に比べ、比較して著しく低い金額で著作権の譲渡や著作者人格権の不行使を求めることは、独占禁止法・下請法・フリーランス法における「買いたたき」や「不当な経済上の利益の提供要請」に該当してくる(違法行為となる)可能性があります。
参考:コンテンツ取引と下請法
https://www.jftc.go.jp/houdou/panfu_files/contentspamph.pdf
その一方、私が知る限りの現状としては、「知財専門の」弁護士や弁理士の大半(体感では9割以上)は企業向け法務の経験しかなく、個人のクリエイターの立場で法律の検討ができません。具体的には、著作権法と独占禁止法・下請法・フリーランス法を同時に検討することができていません。
「著作権譲渡をしないと企業は安心して使えない」というようなことを、クリエイター向けセミナーで発信する弁護士を実際に見たことがあります。
また、文化庁の相談窓口(弁護士知財ネット所属の弁護士が担当)でも「著作権譲渡は当たり前」というような回答を受けた経験があります。
iplaw-net.com
結果として、クリエイティブ制作取引において、企業側が本来の依頼業務で必要のない著作権の譲渡までも、かなり気軽かつ安価に求める ということが、かなり一般的になっています。
弁護士・弁理士に限らず、上場企業の法務部員であっても、そのような行為が独占禁止法・下請法・フリーランス法違反となり得る可能性が高いことを知らない人が多いのではないか、という印象を受けています。
実際の調査結果を見ても、2024年5〜6月時点でも「フリーランス法の内容を知らない」委託者が54.5%います。
参考:フリーランス取引の状況についての実態調査(法施行前の状況調査)結果 概要
令和6年10月18日
公正取引委員会
厚生労働省
https://www.jftc.go.jp/file/2024flsurvey.pdf
独占禁止法・下請法・フリーランス法違反となる、著作権譲渡費用の買いたたきや、著作権譲渡の強要によって得られた著作物を学習データとして作られたモデルや、そのモデルを元にしたアプリケーションの利用によって、元のデータ作成者に対して経済的・精神的被害が発生した場合、どのような救済や対処が考えられるのか?といったことも検討を行った方が良いように思います。
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【参考】イラストレーターが、自身が制作した画像を画像生成AIの学習&類似画像生成に使われた場合のリスク
現状、日本の著作権法では、いわゆる「AI無断学習」が認められています。
学習の結果として生成され、何らかの享受目的で利用された画像が、AIを使わずとも著作権侵害が認められるであろう画像だった場合には、通常の著作権侵害と同様に、差し止め請求、損害賠償請求などをすることができます。
しかし、仮に企業Aに著作権譲渡をしていた場合には、イラストレーターは既に著作権者ではないので、企業Aによる利用を止めたり、損害賠償請求をすることができません。
つまり、企業Aは、著作権譲渡を受けたイラスト画像を元にした類似画像を自由に作り、利用することができるようになります。
著作者人格権不行使特約を結んでいれば、同一性保持権や氏名表示権も行使できないため、名誉又は声望を害するレベルの使用がされているなど、相当な理由でないと使用を止めることができません。
また、イラストレーションデータを学習目的で販売することも可能であるため、類似画像は無限に生成できるということになります。
となると、本来であれば追加で発生していたかもしれない、追加ポーズなどの仕事のチャンスを逃すこともあるかもしれません。
契約条件が不明瞭であるため何とも言えませんが、実際に下記のような事例もあるようです。
“30歳代の男性イラストレーターは、ネット関連業者と業務委託契約を結び、アニメ風のキャラクターなどのデザインを手掛けていた。だが、生成AIが社会に広がり始めた約1年前、業者は男性が考案したキャラクターのイラストを断りもなくAIで作り、販売するように。男性に仕事を依頼することはなくなった。”
AI無断学習で作画「私の作品のつぎはぎだ」…コピーライト・ロンダリングがもたらす「文化の衰退」 : 読売新聞オンライン
https://www.yomiuri.co.jp/world/20240214-OYT1T50020/
画像生成AIの登場によって、イラストレーターにとって、「著作権譲渡」のリスクは、大幅に上がったと言えるでしょう。
参考:AIと著作権(令和5年6月 文化庁著作権課)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/pdf/93903601_01.pdf