TOMOKO OOSUKI

イラストレーター オオスキトモコのブログです。

【「歴史研究と著作権法」シンポジウム資料】世田谷区・歴史学研究会への質問と回答

1・私は「著作権法」の知識と自分なりの実務経験はあるけど、「歴史研究」についての知識がない。

シンポジウム「歴史研究と著作権法―世田谷区史編纂問題から考える―」が、いよいよ今週末に迫ってまいりました。

petitmatch.hatenablog.com
私は、このシンポジウムの2大テーマの1つ、「著作権法」に関しては、ある程度は知識を持っているし、契約実務やトラブル対応の経験があると思っています。
三級ではありますが、知的財産管理技能士の資格を持っていますし、自分なりに日々勉強しています。
また、今まで、約20年に渡りイラストレーターとして仕事する中で、自らの著作権を管理し、契約実務を行っています。さらに、著作物の無断使用のトラブルも複数回経験しており、専門家や周囲の方の協力を得ながら、対処してきました。
著作権に関しては、「実務家」としての実績が、それなりにあるという認識です。

しかしながら、「歴史研究」に関しては、ハッキリ言ってド素人です。
そこで自分なりに、今回のシンポジウムに向けて、歴史研究における著作権の扱いや、世田谷区史編纂問題について勉強しなければ…と思いました。そこで、各所に質問をしてみました。
私が個人的な疑問点を調べたことですが、参加者の方のご参考にもなるかと思いますので、公開いたします。
*公開にあたり、世田谷区・歴史学研究会からは確認をとっています。

2・世田谷区史編纂問題に対しての個人的な疑問点を、世田谷区に対し質問

私は、世田谷区史編纂問題については、世田谷区史が依頼した区史執筆者の一人である、谷口雄太先生から連絡を頂き、話を伺っています。

researchmap.jp

また、各媒体での報道も見ています。今までの報道を見る限りでの私の考えは、下記記事にまとめています。

petitmatch.hatenablog.com

しかしながら、今回シンポジウムで発言を求められるにあたり、世田谷区側の意見も実際に聞かなければ、フェアではないのではないかと思いました。
そこで、世田谷区に質問&電話取材を行いました。以下がその結果です。

(2-1)私から世田谷区への質問内容(実際に送信した内容)

www.city.setagaya.lg.jp初めてメールいたします。
イラストレーターのオオスキトモコと申します。

令和5年第2回定例会 令和5年6月15日(木) 本会議

http://www.setagaya-city.stream.jfit.co.jp/?tpl=gikai_result&gikai_day_id=481&category_id=3&inquiry_id=7131

www.setagaya-city.stream.jfit.co.jp

を拝見し、世田谷区史の編纂に関する問題について質問があり、ご連絡いたしました。

私は今は兵庫県神戸市に住んでいますが、2020年3月はじめまで東京都世田谷区に住んでいました。
Twitterで偶然この問題を知り、元世田谷区民として注視していました。

私はイラストレーターとして出版や広告媒体にイラストレーションを提供する仕事の一方で、独学で仕事に関連する法律の勉強をしており、2021年に三級知的財産管理技能士(国家資格)を取得しました。
資格取得後、主にクリエイター・イラストレーター向けに勉強会をしたり、イラストレーター向け専門誌で法律解説記事の作成を行ったりしております。

昨年秋、私が企画・編集協力・イラストレーションを担当した、
イラストレーション専門誌『イラストレーション』(玄光社)の解説記事「著作権と契約のキホン」

illustration-mag.jp

をお読みいただいたということで、青山学院大学文学部准教授の谷口雄太先生からご連絡をいただきました。

この度、谷口先生主催の、著作権シンポジウム「歴史研究と著作権法―世田谷区史編纂問題から考える―」にて、発言を求められております。

setagayakushi-chosakuken.hatenablog.com

その参考として、事実を元にフラットな視点でこの問題を考察したいため、お伺いしたいことがあり、ご連絡いたしました。

質問は、下記6点になります。
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■世田谷区議会での保坂区長の回答について
保坂区長の説明によれば、下記のような話でしたが、ところどころ不明な点が見られました。

・「係争中であることもあり具体的な言及は控える」とありましたが、出版ネッツの下記のツイートを見る限りでは「係争」は行われておらず、保坂区長及び世田谷区は谷口先生による話し合いの要求を「無視」しているだけのように見受けられます。係争中であることは、議会において言及を控える理由には全くならず、むしろ詳しく説明するべき理由となるように思います。

→【質問1】「係争中」とは、具体的には誰と誰が、何に対して係争中なのでしょうか?

・区史編纂委員会の委員長及び副委員長が説明をして、谷口先生と、他1名を除く、他の編纂委員が著作権譲渡および著作者人格権不行使を承諾した。各委員会をしっかり運営しながら予定通り区史編纂事業を進める。
→【質問2】この区史編纂委員会の委員長及び副委員長による「説明」とは、具体的にどのようなものでしょうか?

・区史編纂の契約条件については、段階を踏んでお願いしてきた
→【質問3】桃野議員のブログによれば、「著作者人格権不行使を含む契約書にサインしない方には執筆させない」とのことで、一方的な条件提示であり、「お願い」はしていないように見受けられます。
実際には、どのような「段階を踏んだお願い」が存在するのでしょうか?
↓桃野議員のブログ

momono.info

・「全体の経過の報告を受けて」現在対処している
→【質問4】「全体の経過の報告」というのは、具体的に誰からの何についての報告でしょうか?

■適法性の検討は、どのように行われたのか

★下記のような過去の報道を見る限りでは、著作権譲渡や著作者人格権の不行使は、必要がないように思います。

世田谷区史の著作権は誰に? 執筆者と区、トラブル防止承諾書で争い:朝日新聞デジタル 

www.asahi.com

"区の担当者は「今後も文章や表現の細かい修正や原稿の二次利用などは、何度も行うことが想定される。その都度執筆者とやりとりはするが、これまでの経緯を踏まえ、きちんと取り決めをした方がいいと判断した」"

世田谷区史の著作権は誰のモノ? 区と執筆者が対立している理由とは:東京新聞 TOKYO Web 

www.tokyo-np.co.jp

"区政策経営部の担当者は取材に、「区史発行後のデジタル公開や他事業への活用を想定しており、勝手に改訂するようなことは考えていない」と説明。"

世田谷区は、WEB等への二次利用に対し追加費用の支払いや、都度の許諾の手間を省くため、区史の執筆者に対し著作権譲渡や著作者人格権不行使を条件としているのだと私は認識しています。
区の担当者の説明では「その都度執筆者とやりとりはする」とありますが、やり取りをし、執筆者の了解を取る過程があるのであれば、著作者人格権不行使を求める必要はないはずです。

こちらの産経新聞の記事および、
東京・世田谷区史サイト 資料無断掲載 研究者不信感あらわ 

www.sankei.com
谷口先生の説明 

kaken.nii.ac.jpによれば、

世田谷区は過去に、WEBへの無断使用(著作権侵害)や、内容改変、校正指示に従わない(著作者人格権侵害)などの違法行為を行ったとあります。
このような違法行為が再度行われた場合、執筆者の専門家・研究者としての信頼度が低下してしまいます。
このような場合、みなし著作者人格権である「名誉声望保持権」の侵害になるようにも考えられるので、著作者人格権の不行使特約自体が、公序良俗違反で無効になる可能性もあり得るように思います。
むしろ、過去のような違法行為の再発を防ぐためには、逆に「著作者人格権の尊重」を契約書に入れるべきではないでしょうか。

★そもそも、世田谷区の担当者は、根本的に著作物の扱いをよく理解していないように見受けられます。
また、わざわざ、公序良俗違反で無効となるような可能性がある契約を「強要」することには、下記A~Dのようなリスクがあるように思います。

A・実質的に無効となり得る条項が入っており、背景事情を知らず、契約書のみを読んだ区職員に対し、混乱を招くリスク(著作権譲渡契約&著作者人格権不行使契約を行っても、執筆者から訴訟を受けるリスクはなくならない。損害賠償請求を受けるリスクもある)

B・著作者人格権不行使の条項を入れることで、誰がいつ原稿の改変を行ったかが不明となるので、「世田谷区史」の歴史的執筆物としての信頼性は、ゼロになります。
世田谷区史は、税金を使って調査した上で、研究者が文章に対する責任を持って執筆するものであるものと認識しております。
著作者人格権不行使の条項が入っていると、歴史的書物として無価値なものが、税金を使って作成されることになります。

C・また、「実際には権利侵害はしないが、どういう使い方をするのかわからないから、とりあえず入れておこう」という程度の安易な理由で著作者人格権不行使の条項を入れ、執筆者の権利を一方的に制限することで、世田谷区のブランドイメージを損なう可能性があるように思います。
「法務レベルが低い自治体」「学術研究に理解がない自治体」という印象を与えるからです。
ブランドイメージの悪化は、地価の低下や治安の悪化につながり、結果として人口の流出や税収の低下につながるように思います。
実際、Twitterで「私の中で世田谷区のイメージが反知性主義的なものへと塗り替えられていく…」と書いている人もいました。

D・区史が市販される予定であれば、「税金以外の収入」が区に入るものであるので、下請法・独占禁止法の対象になり、その場合、無償での著作権譲渡は違法となるように思います。
また、下請法・独占禁止法の対象とならなくても、上記【質問3】にも関連しますが、国が定めた「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」に反する契約となるため、いずれにせよ問題であるように思います。
今回は地方自治体とフリーランスとの契約ではありますが、民間における同様の執筆契約における基準に合わせるべきではないでしょうか。

また、世田谷区が「優越的地位」に該当しない場合には、対等な立場であり、過去に違法行為を行った相手となりますから、「頭を下げて」「著作物の利用の許諾」を「お願い」する立場にも関わらず、「権利譲渡・権利の不行使」を求めるという、極めて失礼な契約条件を提示したということになります。いずれにせよ自治体契約としては、不適切なように思います。

参考:フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン

https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2021/mar/210326free03.pdf

*(優越的地位の濫用として問題となり得る想定例)
・役務の成果物の二次利用について、フリーランス著作権等を有するにもかかわらず、対価を配分しなかったり、その配分割合を一方的に定めたり、利用を制限すること。
フリーランス著作権等の権利の譲渡を伴う契約を拒んでいるにもかかわらず、今後の取引を行わないことを示唆するなどして、当該権利の譲渡を余儀なくさせること。
*今回の件では「著作者人格権不行使を含む契約書にサインしない方には執筆させない」としていることが、これに該当するように思います。

・取引に伴い、フリーランス著作権等の権利が発生・帰属する場合に、これらの権利が自己との取引の過程で得られたことを理由に、一方的に、作成の目的たる使用の範囲を超えて当該権利を自己に譲渡させること。

【質問5】世田谷区は、著作権譲渡や著作者人格権不行使特約について、上記A~Dのリスクや違法性、その他のリスクが存在することを把握した上で、区史執筆者に対し権利譲渡や不行使を求めたのでしょうか?

【質問6】著作権契約というのは、一般的には、著作物の性質に合わせて個別に契約内容が検討されるものです。
世田谷区史編纂に関する契約条件において、歴史研究者の団体等には、相談は行われたのでしょうか?
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以上につきまして、回答をいただけますでしょうか。

シンポジウムでの討論の資料としたいため、頂いた回答は私のブログ 

https://petitmatch.hatenablog.com/

 で公開予定です。
回答がなかった場合にも、その旨を記載して、質問内容は公開します。
よろしくお願いいたします。

(2-2)世田谷区からの回答

令和5年6月21日

オオスキ トモコ 様

世田谷区政策経営部長
(区史編さん担当副参事事務取扱)有馬 秀人 

日頃から、世田谷区政にご理解、ご協力をいただき、誠にありがとうございます。
「区長へのメール」は、区長が内容を確認し、ご意見への回答については担当所管よりお送りさせていただいております。

「世田谷区史編纂問題」についてのお問い合わせでございますが、本件につきましては、これまで昨年の9月に区史編さん委員長・副委員長会議を開催し、著作権譲渡について承諾書や契約書の内容をご説明するとともに、委員からは案文の表現についてのご意見をいただきました。委員からいただいたご意見を踏まえ契約書の表現を修正したものを、10月に開催された中世史編さん委員会などでも説明をさせていただいたところです。以後、12月にかけて、他の委員会や全委員あてメールにおいて、ご説明をさせていただいたところでございます。
以上のことを踏まえて、今年2月に委員の皆様に「令和5年度世田谷区史編さん委員会委員の就任について(依頼)(文書の一部を参考までに回答文末尾に記載)」をご送付いたしました。
他の委員の皆様からは、原稿執筆を行うにあたり、執筆原稿に関する区史編さんに係る著作権譲渡契約(著作者人格権の不行使を含む)を区と締結することにご承諾を頂戴しております。
なお、この件に関する個別具体的な内容に関する回答につきましては誠に申し訳ございませんが差し控えさせていただきますので、ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。

【問い合わせ先】
世田谷区政策経営部 政策企画課 区史編さん担当 須田
電話 (3429)4285

<参考>令和5年度世田谷区史編さん委員会委員の就任について(依頼)
今回の世田谷区史の刊行は、通史として編さんした「新修 世田谷区史」以来、約60年ぶりの刊行となります。この間、区史編さん委員会でもご議論いただいたとおり、今回の世田谷区史は、区としても学術的に高い水準を保ちながら、広く区民の皆様にお伝えしていくことを基本としています。区といたしましても、様々な知識をお持ちの皆様に、その趣旨をご理解いただき、引き続き、委員として、専門的知見からご助言をいただき、すばらしい区史とするため、ご協力をいただきたいと考えております。
そこで、今回の編さんにつきまして、執筆時における編さん委員会による編集や、完成した著作物の2次利用等が容易に見込まれることから、著作権について整理が必要と考え、区といたしまして、本年4月より開始となります「世田谷区史」の現行執筆に向けて、区史編さん委員会への委員委嘱にあたり、これまでご意見をいただいておりました著作権譲渡契約の考えをまとめました。契約そのものは、執筆が始まる年度になりますが、事前にこの内容も含め、「承諾書」の内容についてご承諾をいただきたく、この度、送付するものでございます。この承諾書にご承諾をいただいた方へ、令和5年4月1日付での世田谷区史編さん委員会の各役職への委嘱をさせていただくものでございます。
ご理解をいただき、引き続き委員会活動にご協力をお願いいたします。


お願い:セキュリティ確保のため、このメールアドレスへの返信はお受けしておりません。区政へのご意見・ご要望は、区ホームページの「区長へのメール(区政へのご意見)」よりお寄せください。https://www.city.setagaya.lg.jp/inquiry/mailform999991.html
区長へのメール(区政へのご意見)担当:広報広聴課
電話03-5432-2014

(2-3)世田谷区への電話取材とその結果

上記のメールは、私の6つの質問に対して、どの質問に対する回答なのかが不透明だったので、上記問い合わせ先である世田谷区政策経営部 政策企画課 区史編さん担当 須田氏に、電話して確認してみました。そうしたら、「質問に対して回答できることは、これだけしかない」ということでした。

(2-4)委員に対する十分な説明は、本当にされているのか?

上記の区からのメールにある「著作権譲渡について承諾書や契約書の内容の説明」が本当にされたのか?ということを谷口氏に確認したところ、

・9月の区史編さん委員長・副委員長会議にはそもそも呼ばれていない(委員長・副委員長ではないから)
・実際には一方的に紙媒体で書類が送られてきただけで、内容についての詳しい説明はなかった
ということでした。少なくとも「委員が納得行くような説明」はなされていないようです。

(2-5)私が受けた印象

世田谷区の担当者が、私の質問に対して「回答できない」ことが、本件の対応において、公にできる論理的根拠がないことの証明になるように思いました。

3・歴史論文等の著作権の扱いについて、歴史学研究会に質問

これは出版ネッツのサイトで「世田谷区史編さんにおける「著作者人格権の不行使」問題についての声明と賛同者一覧 」を見て、賛同する学会のサイトを見ていて
「何で著作権譲渡を求める学会と、そうでない学会があるのか?」と疑問を持ちました。

union-nets.org

サイトを見て、「以前は著作権譲渡を求めていたが、今はそうではない」団体であることが判明した歴史学研究会に、質問してみることにしました。

(3-1)私から、歴史学研究会への質問

歴史学研究』掲載論文等の著作権についてのお願い

rekiken.jp

歴史学研究』掲載論文等利用許諾基準

rekiken.jp

を拝読しました。

歴史学研究』掲載論文等の著作権についてですが、以前は著作権譲渡だったようですが、なぜ去年5月から利用許諾になったのでしょうか?
何かきっかけや、会員からの指摘等があったのでしょうか?

(3-2)歴史学研究会からの回答

当会は2009年から雑誌掲載論文の著作権の整理を進めていましたが、この度、国立国会図書館デジタルコレクションでの公開を進めるにあたって、当会が利用する権利(複製権・公衆送信権)をより明確にして、著者の方々に呼びかけを行ったという経緯になります。

*オオスキ注:筆者(著作権者)から、著作権(著作財産権)の「全譲渡」という形では、著作権の各支分権のうち、歴史学研究会が利用する権利が不明瞭であるため、
支分権(複製権・公衆送信権)の「利用許諾」を求めるという形に明確化した
ということでした。

譲渡を許諾に変更した経緯ですが、本会としては2009年からの著作権に関する整理を進めてはいたのですが、その過程で、また今回のデジタルコレクション公開計画を契機に丁寧な検討を行うなかで、本会は任意団体であるため権利譲渡を厳密に行うことが困難であるという認識にいたりました。
そのため、使用許諾という形を選択することになりました。

(3-3)考察(使用許諾の判断と、著作権の相続について)

【想定される問題A】契約事務負担の問題

任意団体であっても、やろうと思えば権利譲渡はできます。ですので、おそらくですが、歴史学研究会が問題としたのは「『厳密に』行うことが困難である」という部分であろうかと推測されます。
つまりは、「権利譲渡を厳密に行う」ための事務負担(個別の契約書の作成など)に耐えられないということなのではないかと…

【想定される問題B】使用許諾の判断と事務処理を誰が行うのか

論文の著作権を学会(団体)が持った場合を考えてみると、主に面倒なことになるのは、使用許諾の許可に対する判断・事務作業を学会が担うことになるという点であろうかと思われます。

論文筆者が学会に対して著作権譲渡を行うと、学会は論文雑誌のデジタル化に関する筆者への許可取りがいらないため、一見、学会側での事務作業が楽になるようにも思えます。
しかし、この場合、筆者本人の使用の場合にも学会に使用許諾を取らなければならないということになります。さらに、第三者からの使用許諾希望がある場合も想定され、その件数が多い場合、論文の件数が増えれば増えるほど、学会側の事務担当者が大変になります。


また、使用許諾の意思決定は誰がするのか(会議で合意する?)などの手間もかかります。

それなら、著作権譲渡とするのではなく、著作者本人に使用許諾の判断&契約に関する事務作業をやってもらったほうが、結果的に管理は楽なのではないか、と考える学会があってもおかしくありません。

しかも何らかの不適切な使用許諾が行われた場合、学会の中で誰が責任を取るのか?
という問題もあります。無断使用等が行われた場合にも、学会が権利者ですので、学会が対処するということになります。

【想定される問題C】著作者の死後はどうなるのかという問題(著作権の相続にまつわる問題)

さらに、著作権は、著作者の死後70年残ります。
研究者(論文の筆者=著作者)の死後の使用許諾や加筆訂正については、著作者人格権の面で、仮に執筆者本人が著作者人格権不行使に同意していたとしても、執筆者の死後に遺族が「本人の意に反する」として、著作者人格権侵害を訴えてくるリスクもあるように思います。
著作権は譲渡できますが、著作者人格権は譲渡できません。

petitmatch.hatenablog.com
そういった問題が想定されるため、筆者の生存中は使用許諾にしておいて、本人に許諾の判断や条件交渉等の事務作業も任せる→死後は遺族に著作権が相続されますから、死後の使用許諾に関する事務作業も、遺族の方に任せたほうがいいのではないか、という考え方もあります。そうすれば、著作者人格権侵害のリスクも発生しません。

著作権を相続する遺族の方がいない場合には、著作権はその時点で消滅し、パブリックドメインとなります。(著作権法62条)
著作権(著作財産権)を学会が持ってしまうと、誰も遺族がいない場合でも、筆者の死後70年、著作権が残るということになります。

著作権の相続のことを考えると、歴史学研究会のように使用許諾で論文掲載を行うというパターンが現実的であるように私には思われますが、しかしそうではない学会もあるようです。

学会が著作物の適切な管理ができ、かつマネタイズができるのであれば、学会が著作権を持つメリットがあるようにも個人的には思います。
実際のところはどういった理由で、どういった管理になっているのでしょうか?

上記の考察は、学術研究にも歴史研究にも無知な、全くの門外漢の私によるものです。
失礼な点がありましたらお詫びいたします。間違いがありましたら、ぜひご指摘いただきたいです。
歴史研究業界(?)の著作権管理について、現状どのようになっていて、今後どうあるべきなのかというのは、シンポジウムでも歴史研究者の皆さんにぜひ伺ってみたいと思っております。