TOMOKO OOSUKI

イラストレーター オオスキトモコのブログです。

【ありがとうございました】シンポジウム「歴史研究と著作権法―世田谷区史編纂問題から考える―」まとめ

緊急シンポジウム「歴史研究と著作権法」

緊急シンポジウム「歴史研究と著作権法

先日、シンポジウム「歴史研究と著作権法―世田谷区史編纂問題から考える―」が行われました。
主催は青山学院大学文学部准教授の、谷口雄太先生(世田谷区史編纂問題の当事者・被害者)です。谷口先生はかつて世田谷区を治めていた吉良氏という武家を専門に研究している、日本で唯一の方です。研究内容については下記記事がわかりやすいです。
実は世田谷にも世田谷城というお城があったらしい。へえ〜!

dailyportalz.jp

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私はこちらの第二部で、イラストレーター(フリーランス)としての経験から、私が知るところの、イラストレーションの仕事における著作権著作者人格権の扱いの現状や、私が感じていること、僭越ながら歴史業界へのご提案などについて、お話させていただきました。

petitmatch.hatenablog.com

具体的には、このブログで過去に書いてる著作権の基礎的なことを、世田谷区史編纂問題と絡めて話しました。

petitmatch.hatenablog.com

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そもそも世田谷区史編纂問題とは?

かなりザックリ言うと、世田谷区が、世田谷区の歴史を書籍としてまとめるにあたり、研究者や専門家に対して、著作権譲渡&著作者人格権不行使特約を強要しているという問題です。今までの流れは下記記事にまとめています。

petitmatch.hatenablog.com

私は、事前資料として世田谷区と歴史学研究会に取材し、下記の記事を作りました。

petitmatch.hatenablog.com

登壇者のツイートまとめ

第一部登壇者・長塚真琴さん(一橋大学教授)

【オオスキの感想】第一部・長塚真琴さん(一橋大学教授)のお話

長塚先生のお話の内容は、想像以上にアカデミックなもので、非常に知的刺激を受けました。
私は自分なりに著作権法などの知的財産法、フリーランス契約関連法を勉強する中で、なんとなくですが著作権法の前に、民法を勉強したほうが良いんでは…と思っていたのですが、ますますその気持ちが高まりました。ビジネス著作権検定の前に、ビジネス実務法務検定試験を受けた方が良いかもしれないと思いました。

著作者人格権大陸法、特にフランス法に由来しており、フランスでは1957年に法で条文化されたということです。
しかしその当時21世紀になってから、著作者人格権はロマンティシズム(ロマン主義、かなりザックリ言うと個人の感性を尊重するという考え方)の現れであると攻撃されたそうです。(2023/7/24 一部修正しました)

ちなみに「レ・ミゼラブル」で有名な文豪、ヴィクトル・ユゴーが、国際著作権法学会の創設者であったという小ネタを教えていただき、ロマン主義とここでつながるんかと、驚きました。

www.alai.jp
また「不行使契約」の意味は人によって違い、問題となるのは「包括的」不行使特約であるというお話があり、たしかに「著作権譲渡」でも同様の問題があるなと思いました。
私の経験では、著作権譲渡を言ってくるクライアントは、セットで著作者人格権不行使も言ってきますが、大抵の場合は、そもそも根本的に「著作権」自体の言葉の定義や、理解が曖昧なようでした。
下記記事の有料部分でも少し書いていますが、私の場合、説明すると100%著作権譲渡・著作者人格権不行使の条件はなくなり、現状、使用許諾&著作者人格権も行使できる状態で仕事ができています。

petitmatch.hatenablog.com

今後は、そういった相手に対しては、「著作権」だけでなく、「著作者人格権」についても、丁寧な説明を心がけたいと思いました。
「相手の仕事を尊重して、慎重に丁寧なコミュニケーションを積み重ねて交渉することが大切」という長塚先生の言葉を心に刻んで仕事をしたいと思いました。

【オオスキの感想】第一部・石原俊さん(明治学院大学教授)のお話

石原先生による、大学の研究環境の実情は、私にとっては結構衝撃的なものでした。
歴史業界(歴史研究者業界?)というのは、「暗黙の了解」によって成立していた部分がかなり大きいということです。
谷口先生からお話を聞いた限りでは、著作権法を知らなくても、今まで特に何も問題が起きなかったのは、「学術倫理」は著作権法とは微妙にズレがあるが、「法律」よりも厳しいから ということでした。
しかし石原先生のお話によれば、その「研究倫理(学術倫理)」はここ10年くらいでできたもので、しかも大学ごとにルールを決めているということなのです。

私の印象では、歴史研究者の世界というのは、相当ローカルルールが支配する世界な上に、かつ「暗黙の了解」という明文化されないルールというか、「雰囲気」で仕事するような世界のようで、かなりショックを受けました。
しかし同時に、「学問の自由」や大学自治が、そういったローカルルール、法の介入がないことによって担保されていた部分もあるのだろうと感じました。それは、私が東大駒場寮の取材をしている中で感じていたことです。

danro.bar

石原先生の「氏名表示のもとに責任をとらせてくれ!」という言葉は重く、また著作者人格権は大学研究者のみならず、私も含め「自分の名前で仕事を取る人・仕事をする人」に共通する大切な権利なのだなと、改めて認識を深めました。

しかし、今の時代は、歴史研究者も、基礎的な著作権法や、フリーランスとして働く場合に関係する法律は知っておいたほうが良いのでは…と思いました。

第二部登壇者・石川昌義さん(日本マスコミ文化情報労組会議〈MIC〉議長)

【オオスキの感想】第二部・宮瀧交二さん(大東文化大学教授)のお話

自治体史の編纂に関わる歴史研究者が、どういった事を考えて執筆・編纂を行っているのか」というお話で、全然知らなかったので、とてもためになりました。
平易な記述で、特定の学説のみに立脚した記述にとどまらず、市民の地域史学習が広がるように配慮しているということです。
一般の方に、こういう話をもっとしていったほうが、世田谷区史編纂問題の問題点がわかりやすく伝わるのではないかなと思いました。

【オオスキの感想】第二部・木下光生さん(奈良歴史研究会事務局長)のお話

自治体史は出版費用は自治体が出すけれども、個人責任があるという特殊な媒体である。項単位で名前が出るし、個人の研究成果として扱われる。
自治体史は研究者の食い扶持になっている。
→本来的には研究者一丸となって行政の理不尽に対抗すべきところ、大学院生やポスドクなどの弱い立場にある研究者は経済的理由や人間関係等から、抵抗できない。
このような分断を生み出すことの深刻さを、世田谷区はよく考えるべきである!

というような、自治体史とは歴史研究者にとってどういうものかという背景事情がよくわかるアツいお話でした。

【オオスキの感想】第二部・中脇聖さん(流山市史編纂問題当事者)のお話

中脇さんは、「流山市史編纂問題」の当事者(被害者)です。
流山市史編纂問題」とは、2005年に起きた事件で、2017年に谷口先生が世田谷区から受けた被害と同様、執筆者に断りなく原稿の改ざんが行われたという問題です。
執筆者が抗議し、修正・再販を求めて裁判に発展し、流山市は敗訴しています。

そういう問題があったことは知っていたのですが、2001年にも同様の問題があり、しかもそのときには原稿料の未払いもあったという話は、全く知りませんでした。
他、歴史業界の「人間関係で仕事が決まってしまう」という事情が、こういった事件の原因となってしまうのかなと思いました。

*以下は参考資料です。

https://7net.omni7.jp/detail/1102573720
本書のサブタイトル「『流山市史通史編』原著全五章」とは本来、市の教育委員会が出した『流山市史通史編』の中にそっくり納められるべきものだったことを意味している。それが執筆者に何の断りもせず「2328ヵ所」(朝日新聞)もの改ざんを施して、『市史』として発行されてしまったのである。その後著者は『流山市史通史編』から、執筆者としての名前の削除を求めた。本書は歴史家としての良心から、著者が自費を投じて出版した著である。

平成30年度 第1回 四街道市史編さん委員会会議録(P9)
林委員:流山市でしょうか、市史の原稿を改ざんしたという。あのようなことにならないように検討いただけたらと思います。書いた人が自費で出しているそうですが。

https://www.city.yotsukaido.chiba.jp/shisei/shingikai/kaigi_kekka/h30nendokaigikekka/ysomu20180608.files/kaigiroku.pdf

第二部・オオスキトモコ(イラストレーター)の話

私です。下記のスライドを読みました。

 

↓スライドのダウンロードはこちらから

www.slideshare.net↓その後、「ビジネス著作権検定公式テキスト」の著作者人格権についての記載変更などの情報はこちら

petitmatch.hatenablog.com

【オオスキの感想】第二部・石川昌義さん(日本マスコミ文化情報労組会議〈MIC〉議長)のお話

石川さんは中国新聞の記者です。「新聞記者が自治体史を結構仕事で使っている」というのは、初めて知りました。
あと、どなたの発言か忘れましたが、そもそも今、自治体史を作れる予算がある自治体は少ないそうです。
東京は実はニュース砂漠と言われており、区政については地方紙よりもきちんとした取材ができていないと言われています。

webronza.asahi.comこの状態でさらに、自治体史が信頼できないものになってしまったら、東京の歴史はどうやって残すのかと、不安になりました。

【オオスキの感想】第二部・杉村和美さん(出版ネッツトラブル対策チーム責任者)のお話

「世田谷区史編纂問題についての出版ネッツの取り組み」についての説明がありました。
「問題の社会化を」というのは、本当そうしたほうがいいなと思いました。
これは、谷口先生だけの問題ではないと思うからです。
また、これから取り組みたいこととして、「『著作者人格権の不行使』ではなく『著作者人格権の尊重』を入れた契約書ひな型を作成し、それを普及させる」というのは、素晴らしいと思いました。

まとめ

最後の挨拶、

石原先生:「美術館・博物館自治は弱っている。表現の自由自治のために、業界を超えて連帯!」

長塚先生:「相手のメンツを潰さないようにうまくやる!着地点をみつける。谷口先生の書いたものを読みたいという点で、まとまれるのでは。」

という言葉が心に残りました。

参加者の感想

ameblo.jp

ありがとうございました!
今後良い方向に進むように、私もできることはやっていきたいと思います。
今後も、御所巻ブログでこの件についてチェックしましょう!

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出版ネッツによるまとめ(2023/7/28追記)

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