TOMOKO OOSUKI

イラストレーター オオスキトモコのブログです。

【私の提出意見】フリーランス新法についてのパブリックコメント

フリーランス新法のパブコメ、他の方の意見も見てから… と思っていたのですが、
他にやることもあるので、先ほど出してしまいました。

public-comment.e-gov.go.jp
私はイラストレーターなので、イラストレーターとしての意見となってしまいますが…
少しでも、ご自身でパブコメを書かれる方のご参考になればと思います。
もし「賛成!」と思っていただけた部分があれば、その部分はどうぞご利用ください。

私の提出意見の内容について、ざっくり解説

少し前にXで下記のようなことを書いたところ、結構RP・いいねがつき、問い合わせもありました。

今回パブコメで書いたメインの内容とほぼ同じなので、こちらで解説します。

具体的に私が「罠」と感じた部分とは、

【別紙5】特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方(案) の、
 肝心の「契約期間の始期・終期」の考え方が、そもそもダメなのではないか? 

という点です。

現状の「考え方」だと、契約締結(仕事を受託した日)から納品まで「1ヶ月以上」でないと、禁止事項(買いたたきとか、報酬の減額とか)が適用されません。
フリーランス新法=「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」第5条=依頼者側の禁止事項を定めたもの の対象になりません)


たとえば、せっかくインボイス対策として「消費税を支払わないこと」も禁止事項に入ってるのに、そもそも対象になる取引の範囲がかなり狭まる ということになります。

他の職種のフリーランスの方の契約がどうなっているのかは知りませんが、
イラストの仕事は、〆切まで1ヶ月ない単発の仕事が結構あるので、
そういった取引が「禁止事項」が適用される対象にならないとなると、フリーランス新法ができる意味が、ほぼなくなると思うのです。
*私はそもそも以前から、全ての取引において確認書を作成しているので、
「取引条件の明示の義務化」は、私個人としては本法が施行されてもとくに影響がなく、本法施行の主な意義は、本法第5条の「禁止事項」ができること=下請法類似の規制がかかるようになること と認識しています。

petitmatch.hatenablog.com
また、規制逃れのためにスケジュールをカツカツにする(依頼から納品までを1ヶ月以内にする)発注者も出てきそうじゃないですか?


結果、私にとっては、フリーランス新法ができることによって、逆に労働環境が悪くなってしまうということになります。

これが私がXで「罠」と表現していた内容になります。

公取委に問い合わせたところによれば
実際の業務委託期間に関わらず、契約の有効期間を1ヶ月以上にすることで
本法第5条の適用を行うことができるということでしたが
(詳しくは下記記事の★疑問4★参照)

petitmatch.hatenablog.comそういう契約交渉ができる知識がある人(私みたいな人)は、
契約書をちゃんと読めて、契約条件も交渉できると思うので
第5条の禁止事項にあるような被害には、あう可能性が低いと思うんですよね…

なので、パブコメで懸念点を書いてみました。

私の提出意見(5979/6000字)

*私はe-Govから提出したので文字数制限があり、MAX6000字だったのでこの文字数で書きましたが、メール・郵送の場合は文字数制限はありません。

しかし、メール・郵送の場合は、
「1 意見募集対象」のうち、(1)、(2)、(5)及び(6)に対する意見の提出先は公正取引委員会
(3)及び(4)に対する意見の提出先は厚生労働省
と、分けて提出せねばならず、面倒くさい。なので私はe-Govから出しました。

public-comment.e-gov.go.jp

私は、フリーランスイラストレーターとして、20年の経験がある者です。
以下、実際の経験や、職業的知見を元に述べます。

 

★【別紙4】特定業務委託事業者が募集情報の的確な表示等に関して適切に対処するための指針(案)について

 

〈以下意見〉
【別紙4】P20-21、第4・5の「(2)相談(苦情を含む。以下同じ。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」について に、
「(2) 相談(苦情を含む。以下同じ。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
特定業務委託事業者は、特定受託業務従事者からの相談に対し、その内容や状況に応じ適切かつ柔軟に対応するために必要な体制の整備として、次の措置を講じなければならない。」
として、「『相談窓口』をあらかじめ定め、特定受託業務従事者に周知すること」
とありました。

 

【別紙5】の定義によれば
「『特定業務委託事業者』とは、(1)業務委託事業者であって、個人であって、従業員を使用するもの、(2)法人であって、二以上の役員があり、又は従業員を使用するもののいずれかに該当するものをいう。」
とありました。
ということは、「特定業務委託事業者」は、「2人以上、働いている人がいる会社」
であり、個人事業主でも1人以上の従業員がいれば該当してしまいます。
デザイン事務所や制作会社などは、そういった「2~3人でやっている会社・事業所」が、実際にかなりの数で存在するように思います。

そういった環境の場合、「相談窓口の設置」自体が、現実的に考えて、かなり難しいように思われます。
「(相談窓口の担当者が適切に対応することができるようにしていると認められる例)」
として
「(3)相談窓口の担当者に対し、相談を受けた場合の対応についての研修を行うこと。」
とありましたが、これは、何らかの「ハラスメント対応研修」を受けておけば問題ないというような意味合いなのでしょうか?明確にしたほうが良いと思います。

フリーランスの立場として考えると、例えば2人会社の1人からハラスメントを受けた場合、実際にもう一人が「相談窓口担当者」であった場合、相談できるかと言うと、しづらいと思います。
また、ハラスメント加害者が「相談窓口担当者」である可能性もおおいに考えられますが、その場合、被害者である特定受託事業者(フリーランス当事者)は、どこに相談すべきなのでしょうか?
そういった場合の、『現実的な』被害者の相談先を、ガイドラインに明記すべきと考えます。(「フリーランス・トラブル110番」や、東京都の場合、「ろうどう110番」など?)

また、「(相談窓口をあらかじめ定めていると認められる例)」として、
「外部の機関に相談への対応を委託すること。」とあったが、具体的にどのような「外部の機関」を厚生労働省が想定しているのかを、明記すべきと考えます。
P22の「中立な第三者機関」についても同様で、「中立な第三者機関」とは具体的にどのようなものを指すのか というのを明記したほうが良いのではないでしょうか。

 

★【別紙5】特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方(案)について

 

〈以下意見〉
知的財産権の扱いについて

イラストレーターとして気になる部分、知的財産権の扱いに関して、しっかりと定義されており、たいへん良いと思いました。

第2部・第1・(3)明示すべき事項
P8 「ウ 特定受託事業者の給付の内容(本法規則第1条第1項第3号)
(前略)
また、委託に係る業務の遂行過程を通じて、給付に関し、特定受託事業者の知的財産権が発生する場合において、業務委託事業者は、目的物を給付させる(役務の提供委託については、役務を提供させる) とともに、業務委託の目的たる使用の範囲を超えて知的財産権を自らに譲渡・許諾させることを『給付の内容』とすることがある。この場合は、業務委託事業者は、3条通知の『給付の内容』の一部として、当該知的財産権の譲渡・許諾の範囲を明確に記載する必要がある。」

第2部・第1・(3)明示すべき事項・キ 報酬の額及び支払期日
P10「(イ)知的財産権の譲渡・許諾がある場合
業務委託の目的物たる給付に関し、特定受託事業者の知的財産権が発生する場合において、業務委託事業者が目的物を給付させる(役務の提供委託については、役務を提供させる)とともに、当該知的財産権を自らに譲渡・許諾させることを含めて業務委託を行う場合には、当該知的財産権の譲渡・許諾に係る対価を報酬に加える必要がある。」


「業務委託において知的財産権が発生し、使用許諾or著作権譲渡を含めて業務委託を行う場合には、譲渡・許諾に対する対価を報酬に加えるように」と明文化されておりました。
これは、現在横行している、安易・安価な著作権譲渡を「買いたたき」として違法行為に問いやすくなるので、たいへん良いのではないかと思います。


インボイス制度関連について

P30、禁止事項である「報酬の減額の禁止」の説明で、「報酬の額を減ずること」に該当する具体例として、「消費税・地方消費税額相当分を支払わないこと」とありました。
こちらも、インボイス制度に乗じた消費税分金額の減額への対抗になっているので、良いと思いました。


■本法第5条が適用される「政令で定める期間」について、ご提案

しかし、肝心の、「禁止行為」が発生するための契約期間である「政令で定める期間」、「1ヶ月以上」を定義するための「期間の始期と終期」の考え方、特に「終期」の考え方に問題があると感じました。本法第5条の適用となる期間の終期の基本は「報酬の支払期日」とすべきではないかと考えます。

P26
第2部・第2・2 特定委託事業者の遵守事項(本法第5条)の(1)期間の始期と終期
のア 単一の業務委託又は基本契約による場合
の(ア)始期 はこちらで良いかと思うのですが、
(イ) 終期が、単一の業務委託の場合に問題があります。

(イ) 終期
単一の業務委託又は基本契約による場合における期間の終期は、業務委託に係る契約が終了する日又は基本契約が終了する日のいずれか遅い日であり、具体的には次の日のいずれか遅い日である。
なお、実際に給付を受領した日が、3 条通知により明示する期日等よりも前倒し又は後ろ倒しとなることがあるが、これによって終期は変動しない。
(1)3条通知により明示する「特定受託事業者の給付を受領し、又は役務の提供を受ける期日」(ただし、期間を定めるものにあっては、当該期間の最終日)
(2) 特定業務委託事業者と特定受託事業者との間で、別途当該業務委託に係る契約の終了する日を定めた場合には同日
(3)基本契約を締結する場合には、当該基本契約が終了する日

 

現状、単発のイラストレーションの仕事の場合、基本契約は締結しない場合がほとんどです。
現状の「考え方」のまま本法が施行されると、契約から締切(給付の受領・役務の提供)までのスケジュールを、ギリギリ1ヶ月以内にする、または実際の締切よりも書面上の納期を早めることや、意図的に契約書の締結を遅らせることで、本法第5条の適用を逃れようとする発注者が出てきそうな気がします。また、依頼側都合で実際の納品日が延期になり1ヶ月を超えた場合でも、本法第5条の適用がないということになります。

 

「実際に給付を受領した日が、3条通知により明示する期日等よりも前倒し又は後ろ倒しとなることがあるが、これによって終期は変動しない。」のであれば、仮に1ヶ月以上の業務委託期間がある場合でも、書面上の給付受領日を「実際に給付の受領が必要な日」より早め、契約締結日から1ヶ月以内にすることで、容易に本法第5条の適用を逃れることができます。
これでは、本法で「禁止行為」を定めている意味が、ほぼなくなってしまうように思います。
経験上、そのような「規制逃れの契約手法」を取ってくる依頼側の法務担当者や企業の顧問弁護士の存在が、容易に想像できます。
現状のままでは、イラストレーションの仕事の場合、本法の施行によって、逆に契約条件や労働環境が悪くなってしまう可能性が、極めて高いように思います。

 

そもそも、納期が短い・報酬条件が悪い企業・案件や、法務部や法務担当者が存在しない・法務担当者や顧問弁護士の質が低い企業ほど、取引上での問題も多い傾向にあります。
現状の「考え方」では、当初に決めたスケジュールを守らない、だらしない現場担当者、倫理観が欠如した法務担当者や顧問弁護士がいる企業ほど、本法第5条の適用を逃れやすく、あらゆる面で得をするということになります。
かつ、フリーランス側にとっては、本法ができる前よりも、フリーランス側に提示される条件や環境が悪化します。
それでは本法ができた意味がなく、本末転倒です。

 

そのため、期間の始期は「契約締結日」で問題ありませんが、
終期の(1)は「3条通知により明示する『特定受託事業者の給付を受領し、又は役務の提供を受ける期日』ではなく、『報酬の支払期日』にすべきではないかと考えます。
「報酬の支払期日」にしておけば、急ぎの仕事で、本法第5条の適用がない仕事は、「1ヶ月以内に報酬の支払いがある仕事」ということになりますから、
本法第5条における禁止事項がない場合、本法の施行によって、フリーランス側には「報酬の支払いが早くなる」というメリットが発生します。


■「業務委託に係る契約」とは具体的にどういった契約を指すのか、明確に記載したほうが良いのでは?

イラストレーションの仕事で考えると、情報成果物の作成委託が発生すると同時に、一般的には情報成果物=著作物の使用許諾契約が発生します。
イラストレーションの給付(納品)が終わったあとに、使用許諾期間が開始される場合が多いかと思います。この使用許諾契約は、
「(2)特定業務委託事業者と特定受託事業者との間で、別途当該業務委託に係る契約の終了する日を定めた場合」の「当該業務委託に係る契約」に該当するのでしょうか?
この点について、公取委に確認したところ、「まだ決まっていない」ということでした。
「業務委託に係る契約」とは具体的にどういった契約を指すのか、明確に記載したほうが良いのではないでしょうか。

 

イラストレーションの作成委託に付随する著作物使用許諾契約は、
「(2)特定業務委託事業者と特定受託事業者との間で、別途当該業務委託に係る契約の終了する日を定めた場合」の「当該業務委託に係る契約」に該当する可能性もあるかと思います。
しかしながら、著作物使用許諾契約が「当該業務委託に係る契約」に該当する場合、
前述のように、本法第5条の適用、「買いたたき」「不当な経済上の利益の提供要請」とされることを避けるために、あえて納期を短く設定する&激安の料金でイラストを依頼し、著作権を無償譲渡させようとするという悪質な取引を誘発する可能性も考えられ、これまた禁止事項で知的財産権の許諾・譲渡に関する「買いたたき」「不当な経済上の利益の提供要請」を禁じている意味がなくなります。この場合も、本法ができることで、イラストレーターの取引環境を悪化させる結果となってしまう可能性が高いです。
その点から考えても、本法第5条の適用となる期間の終期の基本は「報酬の支払期日」とすべきではないかと考えます。

 

または、「【別紙1】特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令(案)について」にも関連しますが、

 

(1) 禁止行為の対象となる期間(第1条関係)
本法第5条第1項の政令で定める期間は、一月とする。

 

この部分の「政令で定める期間」を「一月」でなく、「一月とする。委託に係る業務の遂行過程を通じて、給付の内容に特定受託事業者の知的財産権の譲渡・許諾が含まれる場合においては、期間を問わない」とするなど、給付の内容に特定受託事業者の知的財産権の譲渡・許諾が含まれる場合においては、期間の制限をなくしてはいかがでしょうか。
または、「一月とする。情報成果物の作成委託においては、期間を問わないものとする」でも良いかと思います。「業務委託の期間(政令で定める期間以上の期間)は下請法同様、不要ではないか」という意見は、「特定受託事業者に係る取引の適正化に関する検討会」の当事者団体ヒアリングでも出ていたかと思います。

 

参考:【フリーランス新法】公取委「特定受託事業者に係る取引の適正化に関する検討会」と、当事者団体ヒアリングまとめ https://petitmatch.hatenablog.com/entry/2023/08/25/182613

 

「考え方」の中で、知的財産権の譲渡・許諾が含まれる場合の取引についての言及が多い割に、肝心の「禁止行為の対象となる契約期間」が「契約から納品までが1ヶ月以上」では、実際にトラブルの温床となりやすい短納期・悪条件の取引が禁止行為の対象取引にならないように感じました。


★【別紙6】本法と独占禁止法及び下請法との適用関係等の考え方(案)について
 

〈以下意見〉
フリーランス新法と独占禁止法・下請法が両方適用になる企業・案件の場合には、基本的にフリーランス新法が適用される。しかし、公取の判断で下請法を適用させたほうがいいと判断した場合には下請法が適用される、ということで、良いのではないかと思います。

 

ただ、これは本題とはそれますが、公正取引委員会に確認したところ、地方自治体とフリーランスの直接契約の場合は、『事業活動』に該当しない仕事の場合は、独占禁止法・下請法・フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)のいずれも適用がないと説明されました。
現状では、フリーランス地方自治体が直接契約をする際の法律が存在しません。
そのため、東京都世田谷区などで、実際にフリーランスとの仕事において、トラブルが続出しています。
将来的には、本法の適用範囲を、事業者だけでなく、地方自治体等との契約にも拡大してほしいと願っております。

 

問題の例:東京都世田谷区(2例)、その他1例
・世田谷区史編纂問題
山本さほさん(漫画家)と世田谷区とのトラブル
近藤ようこさん(漫画家)と地方自治体とのトラブル

参考:「世田谷区史編さん問題」から考える、地方自治体とフリーランス間の契約問題 https://petitmatch.hatenablog.com/entry/2024/04/01/000831

パブリックコメントを書くために

このパブリックコメント募集の最大の問題点は、
資料のPDFが、保護されてて、コピペできないということです。
そこで、Acrobatを使って文字認識しました。 これでだいぶ書くのが楽になると思いますよ!

www.adobe.com

e-govから意見を出すとき、機種依存文字で引っかかる場合があるため、このツールでチェックしましょう(このツールでないと「波ダッシュ」が引っかかりません)

mrxray.on.coocan.jp

↓資料のザックリ解説と私の感想は、以下の記事にありますので、よかったら

petitmatch.hatenablog.com