TOMOKO OOSUKI

イラストレーター オオスキトモコのブログです。

初めての学会参加!ALAI JAPAN(日本国際著作権法学会)総会・研究大会「《シンポジウム》著作者人格権の不行使特約は可能か」

1・初めての学会参加

先日、ALAI JAPAN(日本国際著作権法学会)総会・研究大会「《シンポジウム》著作者人格権の不行使特約は可能か」に参加しました。日仏著作権法との比較や経済法からの視点での検討で多角的に著作者人格権不行使契約について考えることができ、とても勉強になりました。

内容は、下記のようなものでした。

【プログラム】

〈国際大会報告〉ALAIパリ大会報告
  内田剛(東海大学准教授)

《シンポジウム》 著作者人格権の不行使特約は可能か
 (司会)長塚真琴(一橋大学教授)
  中小路 大(弁護士)
  中里  浩(東京経済大学教授・経済法)
  石尾 智久(金沢大学専任講師・民法

www.alai.jp

今回の参加のきっかけは、今年7月の青山学院大での世田谷区史編纂問題のシンポジウムでご一緒した、一橋大学の長塚先生から、お誘いを受けたことです。
青学のシンポジウムでは私も登壇者の一人として、お話をさせていただきました。

petitmatch.hatenablog.com
世田谷区史編纂問題とは、かなりザックリ言うと、世田谷区が、世田谷区の歴史を書籍としてまとめるにあたり、研究者や専門家に対して、著作権譲渡&著作者人格権不行使特約を強要しているという問題です。

petitmatch.hatenablog.com

この世田谷区史編纂問題の被害者である青山学院大学の谷口雄太先生が、なぜか私が企画・編集協力した、玄光社「イラストレーション」誌の「著作権と契約」をお読みになり、メールを頂いたことから、上記のシンポジウムでの登壇に至りました。

petitmatch.hatenablog.com

setagayakushi-chosakuken.hatenablog.com

今回のシンポジウムの全体の流れについては、上記の出版ネッツのブログ記事に書いてあるので、この記事では、私の個人的な感想を書こうと思います。

一橋大学国立キャンパス西校舎 本館

一橋大学国立キャンパス西校舎 本館

私は、学会というものに行くのが、今回初めてでした。

はじめは、今回の先生方の発表内容が理解できるのかどうかが不安でした。
正直なところ、シンポジウムは最悪理解できなくていいので、
懇親会で、今後私がまた著作権に関する企画記事を作るときに一緒にやってくれるような弁護士さん(同世代の女性だとより良い!)と出会えないかなあ〜というほうが目当てで行きました。

しかし、意外と、思っていたより広い範囲を理解することができました。
わからない部分は、iPhoneでその都度ググりながら話を聞きましたが、それでだいたい理解できました。(たぶん)*フランス法の部分は当然わからないです

当事者として普段、著作権法や下請法や独占禁止法にリアルに向き合っているためか、すんなりと身近な問題として、先生たちの発表を理解することができました。
あと、三級とはいえ知的財産管理技能士の資格を持っていること、ビジネス著作権検定上級の勉強をしてたので(今はしてない…)勉強しててよかった〜と思いました。

ALAIパリ大会報告は、生成AIの話がメインでした。
今の著作権業界(?)最大の関心って、世界的にやっぱそこなんですね。

↓ググってレポを発見!

ALAI2023 パリ大会参加報告
(2023年6月20日~23日、フランス・パリ)
譚天陽 早稲田大学法学学術院比較法研究所助教

http://www.aisf.or.jp/aifdocs/gakkai2023-01.pdf

一橋大学国立キャンパス西校舎 本館 入り口は両脇

一橋大学国立キャンパス西校舎 本館 入り口は両脇

2・《シンポジウム》 著作者人格権の不行使特約は可能か

はじめに想定事例あり

会場に入ると、机に、今回のシンポジウムで想定事例とする2例が書かれたプリントが置いてありました。

1例目は、フリーランスイラストレーターが、地方自治体の町おこしイベントのチラシの仕事を広告会社経由で受け、著作権譲渡&著作者人格権の包括的不行使特約の契約書にサインさせられた→その後いろいろ目的外流用が…という事例。(ありそう…)

2例目はいわゆるゴーストライターの事例。

この2例について、4者で検討をしていくというものでした。
自分なりに「こうなんじゃないの?」という回答と理由を用意して、先生方のお話を聞き始めました。

1・長塚 真琴(一橋大学教授、司会兼任)「著作者人格権の不行使特約は可能か―企画趣旨、検討対象、フランス法からの考察」

まず企画趣旨の説明があり、世田谷区史編纂問題がきっかけであること、目的は

・著作物制作の委嘱や投稿論文募集の際に、包括的な著作者人格権不行使特約が「デフォルト状態」となることを防ぎたい。

・フランスで「日本には著作者人格権がある」と言いたい。

ということで、私の目的とも合致しておりました。

そもそも著作者人格権不行使特約は有効なのか?ということに対しては、結構幅広い説があるんだなと思いました。
想定事例の検討に関しては、考え方・回答ともに私の検討とほぼ同じでした。
私は思考のやり方がフランス法に近しいのかもしれんと思いました。

フランス法からの考察ですが、

・フランスは「職務著作」がない。
・フランスの著作権契約は基本ランニングロイヤリティー方式で、著作権譲渡でも買い切りは基本ない。
・フランスはデザイン(図案)に著作物性を認める方向の考え方をする。

ということを、初めて知りました。

「文化を守り伝える役割を著作者に担わせることは公序(日本においても)」

(公序=公の秩序=国家及び社会の一般的利益)

著作者人格権不行使を安易に認めてしまうと、事後に誰がどのような変更を加えて作品が成立したのかが後でわからなくなる。
→事後、研究なりをするときに文化史的にどうなのか?

という結論でしたが、この点に関しては文化史的にもそうですが、著作物ビジネス(文化芸術分野のビジネス)の現場において、なにか問題が起きたときの責任が曖昧になるという点でも、問題ではないのかなあ?と思いました。

てか、著作物の扱いが雑だった場合の責任を曖昧にしたいから、著作者人格権不行使特約を結びたい場合もあるのだろうか…とも思うと、ますます断固拒否したい気持ちになりました。私は現状、著作者人格権不行使特約は入れずに仕事できていますが…
(クライアントの皆さん、私の著作者人格権を尊重してくれて、ありがとう!)

2・中小路 大(弁護士)「著作者人格権不行使特約の経緯と現状」

著作者人格権不行使特約はいつから契約書例に登場したのか」というのを、中小路先生のビジネス法務系蔵書から検証するという、とても面白い発表でした。
「最新契約書モデル文例集」(新日本法規出版)、イラストレーション制作委託契約書に著作権譲渡&著作者人格権不行使特約がデフォルトで入ってる件の犯人はお前か!!と思いました。(私がそのように感じただけです。要検証)
どうにかして読んでみようと思いました。

あと面白かった…というには語弊がありますが、興味深く感じた点は…
スウィートホーム事件(中小路先生が原告側弁護士)まで、劇場用映画における監督契約、原作者との使用許諾契約には契約書をつくらない慣行があったそうです。TV放映におけるトリミング、CM挟む、みたいな時に、やっぱ契約書いるやろという話になり、作るようになったそうです。
理由それなんだ…と思いました。

↓ちなみに「スウィートホーム事件」とは

https://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/ss/07jasrac/jasrac4.htm

jucc.sakura.ne.jp

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/745/013745_hanrei.pdf

判例全文は、後日ちゃんと読もうと思います。

3・石尾 智久(金沢大学専任講師・民法)「著作者人格権の不行使特約――日本民法・フランス著作権法の観点から――」

著作者人格権不行使特約の有効性は認めつつ、他の解決法を探るという発表。
フランス著作権法における「撤回権」的なものを、日本法でもなんとかできないか的な提案。
想定事例1におけるイラストレーターに対して厳しすぎる提案で、支持できないと感じました。(これは私の完全なるポジショントークです。)

4・中里 浩(東京経済大学教授・経済法)「著作者人格権不行使特約の有効性(経済法の観点から)」

中里先生は元公取委職員。独占禁止法のプロ中のプロです。
実務で公取委に電話しまくっている私としては、中里先生の発表が最も実態に近いというか、私が実務で日々感じていたことに近く、こんな研究者がいたとは〜!!と思いました。長塚先生のキャスティング能力に敬礼!!

独占禁止法21条と、趣旨逸脱説(通説・公取委実務)は知りませんでした…
ここに書いてありました。

独占禁止法第21条は、「この法律の規定は、著作権法特許法、実用新案法、意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない。」と規定している(注5)。したがって、技術の利用に係る制限行為のうち、そもそも権利の行使とはみられない行為には独占禁止法が適用される。
 また、技術に権利を有する者が、他の者にその技術を利用させないようにする行為及び利用できる範囲を限定する行為は、外形上、権利の行使とみられるが、これらの行為についても、実質的に権利の行使とは評価できない場合は、同じく独占禁止法の規定が適用される。すなわち、これら権利の行使とみられる行為であっても、行為の目的、態様、競争に与える影響の大きさも勘案した上で、事業者に創意工夫を発揮させ、技術の活用を図るという、知的財産制度の趣旨を逸脱し、又は同制度の目的に反すると認められる場合は、上記第21条に規定される「権利の行使と認められる行為」とは評価できず、独占禁止法が適用される(注6)。

www.jftc.go.jp

あと「公正競争阻害性」という言葉も初めて知りました。これは独占禁止法を考える上での重要要素のようです。

著作者人格権の経済的価値、著作者人格権不行使特約の経済的側面に関しては、何の議論もされていない状態であり、これからの状態ということでした。
全く議論されていないけど、適切な金額設定がない著作者人格権不行使特約も「買いたたき」でいける可能性もあるかもということでした。

私は昨年、下記の記事を作った際に、有料部分の中で著作権譲渡・著作者人格権不行使特約を入れる場合の検討ポイントの1つとして、「ギャラの増額」を入れています。

petitmatch.hatenablog.com

それは弁護士さん(藤森純先生)に提案されたものでしたが、結構新しいことをしてたのかな?と思いました。
著作者人格権不行使特約は、たいていは著作権譲渡とセットであるため、著作者人格権不行使だけに対する増額提案のつもりで書いたわけではなかったですが、私個人としては、次回、「著作者人格権不行使のみ」でもギャラの増額交渉をやってみようと思っていました。

「人格権の不行使」はある種の拘束行為だという認識ですし、特に意味もなく入れてくる企業もありますので(法務が理由を説明できない)、今後、著作者人格権不行使に対しては広告の仕事における競合制限と同様の扱いとし、「拘束料」を設定しようかな〜
と考えていました。

しかし私のところには、その交渉手法を考えついたあと、人格権不行使の契約書が来なくなり、実践できていません笑

私のクライアントは、私の著作権も、著作者人格権も尊重してくれる、素晴らしい方たちばかりなのです。
誰かやってみてくれ〜(自己責任でお願いします。)

話がそれましたが、中里先生の発表を聞いていて、中里先生は元公取委職員のためか、公取委に厳しく、文化庁に幻想を抱いているのではないか?
公取委はクリエイターの権利を考えてなくて、文化庁は考えてくれてると誤解しているのではないか?と感じる点があったので、文化庁の契約書見本はむしろ著作者人格権不行使特約がデフォルトで入ってますよ。という話を、中里先生に後日情報提供しました。文化庁の契約書見本のヤバさについては、多くの方に知ってほしいのでここに書いてしまいますが…

著作者人格権不行使特約がデフォルトで入っている文化庁の契約書見本はこちらです。「成果物制作に関する契約書のひな形をダウンロード」からダウンロードできます。

theatreforall.net

これは芸術作品を想定した契約書で、利用許諾契約で、著作者人格権不行使が入っており、「氏名表示をした上で」「相手先での改変を認める」ものとなっており、かなり変な契約書になっています。

3・懇親会

和やかな雰囲気で、いろいろな方とお話することができました。7月のシンポジウムを見ていてくださり、お声がけいただいた方もおりました。ありがたや…

学生さんがイラストの仕事に興味を持ち、話しかけてくれて、質問してくれたのが嬉しかったです。
もしかしたら他の方にもご参考になるかもしれませんので、その際いただいた質問と私の回答を、一部こちらに記載します。

Q:広告の仕事だと「競合制限」というのがあるのですか?ブランド管理のために必要ということですよね?
*これは私が中里先生の発表に対して行った質問に関連するものでした。

A:あります。目的はその通りです。競合制限は一般的には契約書に明記され、著作物の使用期間や使用用途を決め、競合他社の仕事の制限などをされます。その際には一般的にはその条件に配慮した金額が支払われます。
しかし、競合制限が契約上明記・明言されない(競合管理料も支払われない)が、実質的に競合他社の仕事が受けられない状態(仕事を依頼した会社は同業他社の仕事をすることを気にしないが、競合他社が気にして発注してこない)というのも実際にあります。
そういったことが実際にあるため、広告の仕事では競合制限の有無に関わらず、一定以上の金額を貰わないと割に合わないという現実があります。


Q:著作物の集中管理事業団体って実質JASRAC日本音楽著作権協会)くらいだと思うんですが、少ないと思いませんか?
A:そんなことはないと思います。JASRACのように著作物の集中管理事業だけで大きい組織になっている団体でなくても、実は私が所属している日本漫画家協会でも、著作権等管理事業はやっています。私は自分で管理していますが…

nihonmangakakyokai.or.jp他のジャンルでは、文学の場合、日本文藝家協会著作権等管理事業をやっています。わかりやすいところで言えば、試験問題における利用ですね。

shinsei.bungeika.or.jp

このように、専門職業団体が事業として著作権等管理を行っているという事例は、他にもあるような気がします。

*以下は今回ブログ書くときに調べました
下記のリンク先を見ると、著作権等管理事業者は令和5年9月1日現在で29団体あり、職業団体だと日本脚本家連盟日本シナリオ作家協会日本美術家連盟日本写真家ユニオンなどが管理事業をやっているみたいですね。

www.bunka.go.jp
長塚先生、お誘いいただき、ありがとうございました!
著作物開発実務者として今後も頑張るぞ😤💪という気になりました。


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