- 1・そもそもフリーランス新法とは?
- 2・私としては「取引条件の明示」が諸刃の剣であると感じている
- 3・政府は「フリーランス・トラブル110番を中核として対応する」としているが…文化庁の対応も不安でならない
- 4・そもそも、既存の法律である下請法も守られていないし、公契約も公的法人のやりたい放題になっている
- 5・私自身は、フリーランス新法があってもなくても何も変わらないが、企業側と交渉しにくくなる懸念もある
- 6・損害賠償条項についても不安だ【2023/9/3追記】
先日、フリーランス新法に対する懸念点を、Twitterで何気なくつぶやいたところ…
個人的にはフリーランス新法は「フリーランス保護法」ではないと思っている…
— オオスキトモコ@9/10(日)文学フリマ大阪11 P-16 (@cafe_petit) 2023年8月10日
契約書をちゃんと読まないと、逆に契約書なしの時より損する可能性あるし、特に著作権については取り返しが付かないトラブルになる可能性すらある
気をつけた方が良い
結構いいねがつき、直接DMで「これはどういうことなのか?」という質問も来ました。ですので、気になっている方もいるのかなと思い、せっかくなので、ブログに詳しく書くことにしました。
1・そもそもフリーランス新法とは?
フリーランス新法とは、正確には「「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案」(フリーランス・事業者間取引適正化等法案)」という法律です。
要するにフリーランスに関する取引を適正化し、就業環境を整えようという法律です。
↓このリーフレットがわかりやすいかも
https://www.jftc.go.jp/file/flreaflet.pdf
今年5月28日に可決成立し、5月12日に公布されました。
法は、「公布の日から起算して1年6か月を超えない範囲内において政令で定める日に施行すること」とされているので、つまり来年秋には施行されます。
個人で働くフリーランスに業務委託を行う発注事業者に対し、業務委託をした際に、
・取引条件の明示
・給付を受領した日から原則60日以内での報酬支払
・ハラスメント対策のための体制整備
等が義務付けられることとなります。
↓詳しくは
フリーランス新法は、細かいところはまだ決まっていません。
今月から、公正取引委員会で「特定受託事業者に係る取引の適正化に関する検討会」が行われており、今後月1程度のペースで開催されるようです。
また、同時に、フリーランス当事者団体に対してはヒアリングが行われているようです。
出版・Web・印刷・広告・新聞関連で働くフリーランス(兼業・副業を含む)に対しては、現在、出版ネッツがアンケートを行っています。(8/24まで)
2・私としては「取引条件の明示」が諸刃の剣であると感じている
フリーランス新法には、取引条件の明示義務(3条)があります。
この「取引条件の明確化」が私は、諸刃の剣だと思っています。
例えばですが、クライアント側がガチガチでメチャクチャ細かい契約書を作ってきて、その内容がクライアント側に圧倒的有利な内容だったりする場合もあると想定されます。
しかし、一般的なフリーランスの人(特にクリエイティブ系とか、私のような絵描きは特に…)は、契約書(というか、文字)を読むこと自体に抵抗があったり、字が読めても契約書の内容が理解できず、「よくわからないから、いいや、悪いことにはならないだろう、サインしちゃえ」と思って、サインしてしまう場合もあると思うのです。
特に著作権については、取り返しが付かないトラブルになる可能性があるように思います。
契約書がなければ、法に沿う形になりますから、著作権は譲渡されず自分のままです。
しかし、契約書に著作権譲渡&著作者人格権不行使の条項があり、深く考えずにサインしてしまうと、当然ですが著作権譲渡&著作者人格権不行使に合意したことになってしまいます。
そうなると、著作権譲渡したことによって著作者は著作権を失いますし、何より自分自身でその後その著作物が使えなくなります。
場合によっては、その後の仕事に支障をきたすこともあるでしょう。
特に広告で競合制限がある場合、深く考えずに何でもかんでもサインしてしまったら、大変なことになります。
これは、今でもそういう問題は既にあると思います。
しかし契約書がなかったことによって、「深く考えないタイプの人」の著作権や他の権利が守られてきた場合というのが、確実にあると思うのです。
しかし今後は小さい仕事でも取引条件の明示が義務になる→あまり深く物事を考えないタイプのクライアントが、定型の契約書を色んな仕事に使い回す→あまり深く物事を考えないタイプの受注者が、深く考えずにサインしてしまう
ということが起きると思うのです。
今でもこの問題はありますが、それがますます増えるのではないかと危惧しております。
契約書を作成したり確認するという点だけでも、委託者とフリーランス側には圧倒的な非対称性があります。仮に双方の意識が低かった場合、フリーランスは基本一人で仕事しているわけなので、圧倒的に不利になります。
これが、私がTwitterで呟いたときに考えていた懸念点の詳細です。
3・政府は「フリーランス・トラブル110番を中核として対応する」としているが…文化庁の対応も不安でならない
上記のような懸念点への対策としては、フリーランスに対する弁護士費用の補助や、無償での契約教育・研修を行う必要があるように思います。
政府側は、相談対応については「フリーランス・トラブル110番が相談対応の中核を担う」としているようです。
山田:
この「特定受託事業者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講ずる」、じつはこれがフリーランス・トラブル110番のことなんですよ。ぽな:
ええええ! そうなんですか!?山田:
ついに立法上の根拠ができてしまいました。フリーランス新法をめぐる国会の答弁でも、「相談対応についてはフリーランス・トラブル110番を中核にして対応するべし」と、はっきり言われています。
しかし、私としては、これも不安です…
フリーランス・トラブル110番に過去に相談したときの印象を、下記記事に書いています。
フリーランス・トラブル110番には、私も相談したことがあり、こちらでも契約の相談には乗ってもらえます。
ですが、正直なところ、著作物使用許諾契約(イラストの仕事で一般的な契約)には、全く詳しくないという印象を受けました。
というか、まず、それ以前の問題で、物の考え方が完全に「企業寄り」で、「味方になってくれる感」が非常に薄いです。この「味方になってくれる感のなさ」は、私だけの印象ではなく、他の複数の相談者から聞いたことがあります。
Twitterで検索すると割と「助かった」みたいな良い感想も書いてあるので、その時の担当者によるのかもしれませんが…
同じ内容の相談に対し、フリーランス・トラブル110番だけ回答の方向性が全く違っていたり、(私もおかしいと感じました)他の窓口で「フリーランス・トラブル110番でこういう回答だったが本当か」と確認すると「それはおかしい、考え方が企業寄りすぎ、オオスキさんをあまりに馬鹿にしすぎている」という回答がされた という経験があります。
ちなみにフリーランス・トラブル110番に関する苦情申し出先は厚生労働省 雇用環境・均等局 在宅労働課フリーランス就業環境整備室 (内線4509、7850 )だそうです。下記のフォームからも意見を送信することができます。
www.mhlw.go.jp
ちなみに私のような文化芸術分野のフリーランスへの対応は、文化庁も行っていますが、今年3月17日まで開設されていた、文化庁の契約相談窓口にも、現場の実務をまったく知らない、「大嘘」と言っても過言ではない内容を、さも「これが常識」みたいな説明をしてくる弁護士がおり、かなり困惑しました。
詳しくは下記2本の記事に書いてあります。
petitmatch.hatenablog.com弁護士にも、「実際の現場を知る」「個人事業主の立場で考える」研修が必要であるように思います。
4・そもそも、既存の法律である下請法も守られていないし、公契約も公的法人のやりたい放題になっている
今でさえ、上場企業でも堂々と証拠に残る形で下請法違反や、ハラスメントをしてくる会社があります。(これも経験があり、公取委に申告して指導してもらいました)
↓ここから申告・情報提供ができます
www.jftc.go.jp大企業、しかも上場企業が下請法すら守れていない現状で、一般的な企業がフリーランス新法を守れるはずがないという印象を持っています。
また、公取委に問い合わせた際、フリーランス新法の対象となる発注事業者については、「独占禁止法と同様の運用」となり、地方自治体などの公的法人は「事業活動」を行う場合に限るという話を聞きました。
現在、世田谷区史編纂問題など、地方自治体との契約で、契約条件が独占禁止法・下請法基準では極めて違法性が高いのに、公的法人は適用外であるために、フリーランス側が圧倒的不利となり、地方自治体側がやりたい放題になっているという問題があるようです。
petitmatch.hatenablog.com地方自治体とフリーランス間の公契約における取引適正化についても、検討していただきたいと思っています。
5・私自身は、フリーランス新法があってもなくても何も変わらないが、企業側と交渉しにくくなる懸念もある
懸念事項をつらつら書きましたが、私自身は20年近くフリーで仕事しており、現状、フリーランス新法がなくても、特に問題なく仕事できています。
上にはいろいろ書きましたが、ほとんどの取引先は、素晴らしい方ばかりです。
取引先として下請法適用企業がほとんどであったため、契約書を結んで仕事する機会が多かったです。それ以外の仕事でも「下請法に準ずる形」として、現状ほぼ全ての案件において、確認書を作成してきました。
petitmatch.hatenablog.comなので、私個人としては、既存のやり方でフリーランス新法にも対応できる状態になっています。
しかし、今までは私の確認書だけで問題なく仕事できてきたのに、相手先企業が「ガチガチの定型の契約書を色んな仕事に使い回し、契約書の修正を認めない」という可能性が、フリーランス新法施行後にはあり得ると想定しています。
実際にそういったクライアントは過去に実在し、送付されてきた契約書に対して質問をしただけで、仕事自体をキャンセルされたことがあります。(これも公取委に情報提供済)
そういった事が増えるのではないかと、本当に不安です…
同じ懸念を、弁護士ドットコムクラウドサイン事業本部リーガルデザインチームの方も下記の様に書かれていました。
さて、このフリーランス保護新法が制定された場合、企業としてはどのような対応を取るでしょうか。
個人との業務委託契約に規制をかけることで、業務委託契約が忌避され、労働者としての雇用が増えるとの期待の声もあります。しかし現実にはそうはならず、(よほどの特殊能力を有する個人との契約でない限り)企業は個人との業務委託契約を定型約款化し、画一的な条件でフリーランサーと契約しようとするのではと予想します。
いかに厳しい書面化義務を設けようと、契約交渉力については発注者が強い立場であることには変わりがありません。そして発注者としては、書面化(電磁的記録化)義務を果たしつつ、実務負担を極限まで削減するための工夫として、契約条件を約款化して交渉を受け付けないようにするのが常套手段です。企業が労働者に就業規則を閲覧させる義務を負っていても、実態としてその内容の変更希望にいちいち応じる訳ではないのと同じです。
6・損害賠償条項についても不安だ【2023/9/3追記】
先日、出版ネッツの、フリーランス新法についてのアンケートに回答しましたが…
忘れていたことが…
それは、損害賠償条項についてです。
keiyaku-watch.jp5に書いたように、フリーランス新法がはじまったら、おそらく企業側が契約書を作って、実質的に「契約条件を約款化して交渉を受け付けないようにする」ことが考えられます。
企業側作成の契約書には、損害賠償条項が入ってくる場合が多いと思います。
一般的に考えれば、あまりに一方的にフリーランス側に責任を押し付けたり、損害賠償額が異常なまでに高い場合、下請法・独占禁止法においては優越的地位の濫用、または民法における公序良俗違反として契約が無効となるように思います。
-独占禁止法、下請法-
やや抽象的な話となるのですが、損害賠償責任を著しく制限する条項、又は損害賠償の予定額・違約金を不当に高額に定めた条項については、優越的地位の濫用に該当するものとして無効と判断される場合があります。
これも抽象的な話となるのですが、民法第90条は「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。」と定めています。
例えば、一商品当たりの取引額が数千円程度であるにもかかわらず、当該商品に欠陥が見つかった場合は違約金として1000万円支払うことを定めた条項は、無効となる可能性が高いと考えられます。
なので、あまり心配しなくて良いと言えばそうなのですが、契約が無効になる可能性があるということを知らず、支払ってしまう人もいるかもと思うのですよね…
そういった前例ができてしまうと、悪徳企業や悪意のある弁護士・法務担当者があえて不当な契約書を作って、不当な請求をするということが発生するように思います。
(悪意なく、やばい契約書を作る人もいますけど…)
既に今の段階でそういった契約書の提示はあり、対策に苦慮しているという話も聞きます。(修正しようにも、法務担当者がいなかったり、いても総務と兼務とかで法律知識が全くない人だったり、窓口担当者が無知すぎて、文字通り話にならないとか…)そういった相手への対応コストも今後かかってくるように思います。
め、めんどくせ〜〜
この「トンデモ契約書&話が通じない法務担当者が増えてる問題」は、そもそも企業法務人材の不足という問題が根本原因としてあるようです。
note.comそんな中、フリーランス新法なんてはじめて、大丈夫なのだろうか?
なんか書いてて暗くなってきましたが、フリーランス新法に対する私の懸念点は、現状では上記のようなものになります。何かのご参考になれば幸いです。