TOMOKO OOSUKI

イラストレーター オオスキトモコのブログです。

【正直な感想】文化庁の契約相談窓口に実際に相談してみた

1・文化芸術分野の契約等に関する相談窓口とは

文化庁に「文化芸術分野の契約等に関する相談窓口」というのがあります。
文字通り、文化芸術分野の契約等を相談できる窓口です。
相談を受けてくれるのは、「弁護士知財ネット」の弁護士です。

www.bunka.go.jp

iplaw-net.com

詳しくは下記記事にて

petitmatch.hatenablog.com
令和4年度は3/17までやっていて、今はお休みしており、「令和5年度については、準備が整い次第再開します。」ということです。

2・実際に相談してみた感想

こちらの窓口の開設期間、どんなもんかなと思い、11件相談してみました。
11件中1件を除いては、かなり参考になりましたが、1件への回答がかなり問題が多いものでした。また、11件分の回答内容全体に、下記のような懸念を感じました。

(2-1)弁護士に、文化芸術分野において基礎的な実務知識や業界知識がない?「法律・契約外での支障」についての視点がない?

感想としては、全体に、文化庁の相談窓口の弁護士は、文化芸術分野の仕事の流れや、契約の結果、個人の著作者にどういう問題が具体的に発生しうるかという、基礎的な実務知識や業界知識がないように感じました。

具体的には、かなり安易に著作権譲渡や著作者人格権不行使をさせようとしてくるように感じました。
イラストレーターの場合、著作物の性質にもよりますが、著作権譲渡してしまえば、広告の仕事がその後は実質的にできなくなります(著作物の使用用途のコントロールができなくなるため、競合管理が不可能になる)。
そういった不都合が発生しうることを想定していないように感じました。

契約上で問題がなくても、一般的には競合企業で同時に同じイラストレーターを使うことはイメージ管理上あり得ません。クライアントに対して、競合制限を断ったとしても、一般的には「同業他社と同じ絵柄は避けたい」という心理が発生するように思います。
そういう現実があるから、広告の仕事では使用範囲を管理する必要があるし、それなりの金額をもらわないと割にあわないという現実があります。

クリエイティブ分野での契約では、業界慣習などそういった「法律・契約外での支障」も想定して契約内容を詰める必要がある場合が多いと思いますが、相談窓口の弁護士には、そういった視点が感じられませんでした。

(2-2)日本の著作権法務は、完全に経済的収益性や組織の利便性最優先で行われているのでは?

仮にも「文化庁の」相談窓口で、知的財産権を専門とする「弁護士知財ネット」が関わった上で、この回答内容ならば、日本の著作権法務は完全に経済的収益性や組織(企業)の利便性最優先で行われているのでは?
著作権法の目的である「文化の発展」において、著作者自身の権利や経済的利益は不要と思っているのでは?という印象を受けました。

(2-3)著作権法以外の関連法規も含めて契約を考える、包括的な視点がない?

または、「労働者」と「事業者」の立場の、根本的な違いそのものを理解していないのかも?とも感じました。
そこがわかっていないから、著作権譲渡費用がない著作権譲渡は著作権法的には問題ないが、下請法では「買いたたき」になり得る(違法性がある)可能性が高いとか、そういう視点が持てないのではないかと感じました。

参考:著作権譲渡費用がない著作権譲渡は著作権法的には問題ないが、下請法では買いたたきになり得る可能性が高い」というのは、具体的には、独占禁止法では「優越的地位の濫用」、下請法では「不当な経済上の利益の提供要請」になってしまいます。

(優越的地位の濫用として問題となり得る想定例)
・役務の成果物の二次利用について、フリーランス著作権等を有するにもかかわらず、対価を配分しなかったり、その配分割合を一方的に定めたり、利用を制限すること。

・取引に伴い、フリーランス著作権等の権利が発生・帰属する場合に、これらの権利が自己との取引の過程で得られたことを理由に、一方的に、作成の目的たる使用の範囲を超えて当該権利を自己に譲渡させること。

参考:フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン

https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2021/mar/210326free03.pdf

↓こっちのほうが読みやすいかも
コンテンツ取引と下請法

https://www.jftc.go.jp/houdou/panfu_files/contentspamph.pdf

(2-4)頑張ってほしい。改善を期待している

上記の内容は、契約相談窓口のアンケートにも送りましたが、弁護士知財ネット、文化庁の契約相談窓口のこういった実態を、広く多くの方に知って頂き、参考にしていただきたいと思いました。
私は三級ではありますが、知的財産管理技能士の資格も持っており、基礎的な知識があります。
かつ20年近くイラストレーターとして実務をやっているので、弁護士が、多少、実務にそぐわない、おかしいことを言ってきても「何言ってんだ」と感じることができますが、そうではない人のほうが多いと思います。ですので、多少知識がある状態で相談している、私の感想が役に立つのではと思いました。

アンケートをかなり書いて送ったので、窓口再開の際には改善しているといいなと思っています。

余談

この弁護士知財ネットの弁護士のように、かなり安易に著作権譲渡や著作者人格権不行使を勧めてくる弁護士の存在によって、「とりあえず著作権譲渡&著作者人格権不行使にしとけば安心」みたいな企業法務のやり方が一般化してしまったのではないかと思います。

そういった著作物の性質を深く考えない契約が蔓延してしまった結果が、世田谷区史編纂問題であり、「『自治体が歴史改竄を可能とする契約』を、大学教授である歴史研究者に強要する」「自治体によって誰のためにもならない無駄な『郷土資料』が作られ、税金が無駄使いされようとしている」という事件につながってしまったのではないか?という気がしてなりません。
著作権を扱う法律家には、自分が行う法務アドバイスや契約書の締結が、一体どういう効果をもたらすのか、どういう未来をもたらすのかということについて、長期的視野を持って考えて頂きたいと思います。

petitmatch.hatenablog.com

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