【2022/10/18 最終更新】
- 【0】まえがき・一言で言うと
- 【1】全体の流れ
- 【2】wantedlyでの募集内容には、特に違和感も問題も感じていなかった
- 【3】「著作権法」について簡単に解説
- 【4】深津氏のnote記事に対して感じた、大きな違和感と問題点
- 【5】徳力さんとやり取りしてわかった、深津氏の真意と、現在の「イラストレーター」が置かれる契約状況
- 【6】いまの日本では、法的根拠に基づいた「クリエイター視点」の記事が全く足りない
- 【7】弁護士に質問したところ、やはり深津氏の当初の提示条件は「公序良俗違反として無効」となる可能性が高いそう【2020/10/23追記】
【0】まえがき・一言で言うと
(0-1)一言で言うと【2021/5/23追記】
この話は、一言で言うと
「『公序良俗違反として無効』(ざっくり言えば「違法」)
となる可能性が極めて高く、
雇われる側にとって極めて不利となる条件を、
募集企業のマネジメント層の人間である深津氏が、
『会社が、あなたから画風をとりあげないため』(下記note参照)
note.comと、結果的に雇用者を騙すような形で提示し、求人することは、人道的におかしいのでは?」
という話です。
(0-2)まえがき
先日、note株式会社でイラストレーターの募集がはじまりました。
私としては、noteに合う方が見つかるといいなと思っています。
しかしながら、私がnoteのCXOの深津貴之氏のnote記事に違和感と問題点を感じたことから、ツイッターで深津氏とやり取りさせてもらいました。
やり取りの結果、この状態を放置することは、私自身も納得が行かなかったですし、またnote側にとってもブランドイメージの低下につながり、お互いに問題だと感じたため、直接noteに意見を出すことにしました。
「意見を出す」やり方として、具体的には、私は、実は深津さんとは昨年の「note感謝祭」でお会いしたことがありまして(向こうは覚えていないと思いますが)その際にnoteの社長の加藤貞顕さん、アンバサダーの徳力基彦さんとも名刺交換させていただいていました。ですので、直接連絡を取れる状態なので、徳力さんに今回の件を相談しました。
徳力さんから、深津さんと加藤さんに、事態を共有していただき、謝罪をいただきました。
結論としては、
「私の想像以上に、WEB/IT業界では、クリエイターの権利は蔑ろにされており、それが『ふつう』であることが、今回深津氏と私のやり取りが噛み合わなかった原因であり、業界の問題点」ということでした。
今回のやり取りを含め、私が感じた問題点について、順を追って説明していきます。かなり長文(8000字超え)になりますので、面倒な方は「【1】全体の流れ」だけ読んでいただければと思います。そして興味を持った項目については、詳しく読んでいただければと思います。
*この話、文字ばかりで、とっつきにくいと思うので、特に著作権法の部分については、後日イラストやマンガ、図解等で解説できればと思います。
今回は、この件で各所から連絡を頂いていることもあり、取り急ぎご報告させていただきたく、文字のみとさせていただきました。
【1】全体の流れ
私が最初にnoteイラストレーターの募集記事として読んだのは、wantedlyでの募集記事。これには特に違和感も問題も感じていなかった。(【2】)
↓
その後、深津氏のnote記事「正社員でイラストレーターさんを募集します 」
が出る。イラストレーターとして15年以上商業媒体で仕事をしており、著作権法の知識がある私は、違和感と問題点を感じる。(【3】)
↓
これについて私が違和感と問題点を感じ、ツイッターでコメント。私のコメントについて深津氏からリプライがついたため、詳細を確認するが、いまいち不明瞭な回答をされる。それに対し深津氏とやり取りが続くが、深津氏が私の質問には回答しない形で、やり取りは終了する。(【4】)
↓
徳力さんに相談する。やり取りは徳力さんに引き継いでもらい、今回のイラストレーター募集に対する詳細を確認する。
「私の想像以上に、WEB/IT業界では、クリエイターの権利は蔑ろにされており、それが『ふつう』であることが、今回深津氏と私のやり取りが噛み合わなかった原因であり、業界の問題点」であることが判明する。
私は、もともと、最近、イラストレーション制作において、IT業界やソフトウェア業界ベースで作られたと思われる契約書が増えてきており、それはかなりクリエイター不利な内容なので、それを「標準」とされてしまいそうな流れが来ていること、それどころか、自ら権利を捨てるような、クリエイター不利な契約を「クリエイターに優しい」等として広めるクリエイターが存在することに、かなり憤りを感じていた。(【5】)
↓
私はこれから自ら、法的根拠に基づいた、イラストの仕事の依頼の仕方など、「クリエイター視点」での記事を発信し、社会一般と広く相互理解を深められるよう、尽力していきたいと思った。(【6】)
以上の流れで、説明していきます。
【2】wantedlyでの募集内容には、特に違和感も問題も感じていなかった
私が最初にnoteイラストレーターの募集を知ったのは、こちらのwantedlyの記事でした。
www.wantedly.com私はまず、この記事を読んで、上記記事の内容には、特に問題はないと思っていました。
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【具体的な業務内容】
noteのサービス内外で使用するグラフィックの作成
具体的には・・・
・noteのサービスを説明するイラストや、サービスのイメージを担うビジュアルなど幅広いグラフィックの作成
・記事に必要なチャートなどの図版作成
・ビジネスモデルを説明するインフォグラフィック制作等
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これ自体は、普通のグラフィックデザイナーの募集であり、昔からある、エディトリアルデザイン事務所でのダイアグラム、インフォグラフィックの仕事や、インフォグラフィックス系のデザイン事務所(チューブグラフィックスのような)、通信社(共同通信の「グラフィック記者」)・新聞社でのデザイナー(毎日新聞、朝日新聞、中日新聞等、各社に存在する)の職務内容に近いのではないかという印象を持っていました。noteとしては、NewsPicksの櫻田潤さんみたいなタイプの方を求めているのかな?と感じていました。
【3】「著作権法」について簡単に解説
その後、深津氏のnote記事「正社員でイラストレーターさんを募集します 」が出ます。これについては、「著作権法」について理解していない方は、深津氏の記事の問題点を理解できない可能性がありますので、先に軽く解説します。
【著作権法・著作権とは】
著作権法というのは、「著作権」について定めた法律です。
ものすごくザックリ言うと、「クリエイター(創作者・著作者)の権利」について定めた法律です。「クリエイター(創作者・著作者)の権利」のことを「著作権」といいます。
↓詳しくはこちらをご覧ください。
kids.cric.or.jpプロのイラストレーターでなくても、誰でも、イラストを描いた場合、描いたイラスト(著作物といいます)に著作権が発生します。
いわゆる「原稿料」というのは、「著作権使用料」のことを指しています。
「仕事でイラストレーションを描く」ということは、「著作権者として作品の使用を認めたお礼にお金(原稿料)をもらう」という仕事になります。
↓マンガの編集プロダクション「シュークリーム」さんの、この説明がすごくわかりやすいと思います。
しかし、会社に雇用されているイラストレーターが、仕事でイラストを描いた場合には、そのイラストは「職務著作」と言って、一般的には、著作権は会社に属します。
↓詳しくはこちらをご覧ください。
monolith-law.jp(2020/10/23 note執筆時のリンク先記事の内容が変更されていたため、リンク先を変更しました)
以上、「フリーのイラストレーターは著作権を自分で持っているから、自分の著作物を利用してお金を稼ぐことができる。『会社員のイラストレーターが会社の仕事として作ったもの』の著作権は会社にある。正社員のイラストレーターは自分の著作物を会社で活用してもらうことで、会社の利益に貢献し、会社からお給料をもらうという形でお金を得る」ということだけ、理解しておいていただきたいです。
ちなみに著作権については「イラストレーター」でなくても「ライター」でも「ブロガー」でも「作曲家」でも、何かものを作る人には、同じく権利があります。大切なことなので、何度も繰り返しお伝えしますが、これは法律で決まっていることです。
【4】深津氏のnote記事に対して感じた、大きな違和感と問題点
前置きが長くなりましたが、その後、深津氏のnote記事「正社員でイラストレーターさんを募集します 」が出ます。
note.comこれを読んで、こちらの記事についての個人的な印象をツイッターで下記のように書いたところ、深津氏からリプライがありました。
【私のツイート・1】
大変すぎる…イラストレーターというよりはブランディングアートディレクター&ストックイラスト工場の工場長 というような仕事のような気がする/正社員でイラストレーターさんを募集します|深津 貴之 (fladdict) @fladdict #note https://t.co/XJEOY5vE79
— オオスキ トモコ (@cafe_petit) 2020年4月19日
ストックイラスト…というほどドライではなく、主役級のイラストはガンガン自分で描いていただく感じをイメージしてまっす。あわせて、1人では作りきれない、細かいヘルプやチュートリアルの挿絵は、みんなが作れるようにしていく感じでしょうか。
— 深津 貴之 / THE GUILD / note (@fladdict) 2020年4月19日
「『noteのための画風』を開発・設計」し、その画風は社外では使わない前提で、みんなが自由にカスタマイズできるようなパーツを設計するのが仕事とするならば、実質的には「note専門のストックイラストレーター」ということなのではないか?という印象を私は受けたのですが…
— オオスキ トモコ (@cafe_petit) 2020年4月19日
どっちかというと、「チーム全体で1人のイラストレーター」となる体制で、その「頭脳と目」の部分をメインで担当していただくイメージです。
— 深津 貴之 / THE GUILD / note (@fladdict) 2020年4月19日
だとしたら、やはりブランディングのためのアートディレクターかつ、ストックイラスト工場の工場長ということだと思います。単に表現の違いなだけで…昔でいうイラストレーターのプロダクションの体制に近いと思いますし、かつ画風が外で使えないという点で縛りもきつい気がします。
— オオスキ トモコ (@cafe_petit) 2020年4月19日
【私のツイート・2】
「noteの画風」を開発して社外ではその「画風」自体を使わせない、というのは著作権法的にそんなこと可能なのだろうか?職務著作だから著作物を使わせない、というなら理解できるけれども‥/正社員でイラストレーターさんを募集します|深津 貴之 (fladdict) @fladdict https://t.co/XJEOY5e2Iz
— オオスキ トモコ (@cafe_petit) 2020年4月19日
どうも「使わせない」というところに、根本的な認識違いがあるような… 逆かなと。 未来にそのイラストレーターさんが卒業したあとも、会社ではその画風が使われ続けるので、イラストレーターさんのメイン画風と違うもの作ったほうがよいよ…ということです。
— 深津 貴之 / THE GUILD / note (@fladdict) 2020年4月19日
「未来にそのイラストレーターさんが卒業したあとも、会社ではその画風が使われ続ける」ので、「イラストレーターさんのメイン画風と違うものを作ったほうがよい」理由がよくわからないです。特に問題がないような気がしますが…
— オオスキ トモコ (@cafe_petit) 2020年4月19日
単にnoteの狙いとして「そのタッチでは他で描かないでほしい」ということではないんですか?
— オオスキ トモコ (@cafe_petit) 2020年4月19日
住み分けはしたいですが、禁止できることでもないんじゃないでしょうか?
— 深津 貴之 / THE GUILD / note (@fladdict) 2020年4月19日
そうですよね?だからわざわざ募集のときに先にそういうことを言うっていうのが、なんか引っかかるな〜と思いました。
— オオスキ トモコ (@cafe_petit) 2020年4月19日
noteが求めることとしては、
— オオスキ トモコ (@cafe_petit) 2020年4月19日
1・noteが独占使用できる統一感あるイラストを制作してもらいたい
2・1のイラストは、複数人で量産できるような制作システムにして欲しいし、それに伴う制作ルールも決めてもらいたい
っていうことですよね?
先ほどから「独占」を求めているわけではなと言っているのですが…
— 深津 貴之 / THE GUILD / note (@fladdict) 2020年4月19日
でも「住み分けはしたい」のですよね?
— オオスキ トモコ (@cafe_petit) 2020年4月19日
「noteのために『新しい画風』を生み出し」
「それは会社が、あなたから画風をとりあげないため」
というのは「noteが独占使用できる統一感あるイラストを制作してもらいたい」
という意味ではないのでしょうか。
違うのであれば、何を求めているのでしょうか?
繰り返しになりますが「逆」です。例えば、Aさんが自身の画風でチーム全体のイラストを策定した場合、チームには、その画風で描く人が何人も生まれるわけです。そうすると将来、Aさん以外の方も、その画風でフリーになったり、場合によってはAさんより先に、デビューしたりもするわけです。
— 深津 貴之 / THE GUILD / note (@fladdict) 2020年4月19日
そういう問題を防ぐために、Aさんオリジナルの秘蔵の表現があるなら、それはAさんのプライベートの作品や独立後に取っておくべきと感がえます。グループでの仕事には、違うタッチがあるほうが、お互いにリスクが少ないわけです。
— 深津 貴之 / THE GUILD / note (@fladdict) 2020年4月19日
私が確認したいのは、「今回採用するイラストレーターに対する深津さんのお考え」や「今回採用するイラストレーターの独立後の話」ではなく、「今回採用したい正社員イラストレーターに求める具体的な仕事内容」です。
— オオスキ トモコ (@cafe_petit) 2020年4月19日
整理しますと、(続く)
仕事内容は
— オオスキ トモコ (@cafe_petit) 2020年4月19日
1・noteは、正社員でAさんというイラストレーターを採用する
2・Aさんは「noteのために『新しい画風』を生み出し」チーム全体のイラストを策定する
3・Aさんが「noteのために生み出した『新しい画風』」は「noteが独占使用できること」は求めていない
という理解で正しいでしょうか。(続
上記の理解で正しいならば、私が気になることは2点です。
— オオスキ トモコ (@cafe_petit) 2020年4月19日
1・なぜ正社員雇用の募集をしているにも関わらず、「独立後」の話を先にしているのか?
2・「noteが独占使用できること」は求めていないにもかかわらず、「その画風で描く人が何人も生まれる」ことが「お互いにリスク」なのはなぜか?(続
これはあくまで「noteのイラストレーターの仕事内容」についての質問です。深津さんが仰っていることは、「noteが求めるnoteイラストレーターの仕事内容とは何か」という、質問への回答になっていません。
— オオスキ トモコ (@cafe_petit) 2020年4月19日
1つめのツイートについては、1.2.3は基本はYESだと思います。3については、実態のコンポーネットセットは、チームの共同制作物になると思います。
— 深津 貴之 / THE GUILD / note (@fladdict) 2020年4月19日
2つめのツイート、将来にかかわる情報は先に開示したいからです。2は、ふつうに同じ画風の人が一杯いたら、リスクじゃないんですか?
1つめのツイートの3、「実態のコンポーネットセット」(=「作り上げた『noteの画風』をベースに、よく使うアイテムをパーツ化したもの」?)がチームの共同制作物となる、というのは、これは会社としての「共同制作物」であるから、職務著作なので、会社が著作権を持つ という理解で良いでしょうか。
— オオスキ トモコ (@cafe_petit) 2020年4月19日
まだ作成してないので確約はできませんが、大枠その理解でよいのではと思います。複数人で作る想定になるので。
— 深津 貴之 / THE GUILD / note (@fladdict) 2020年4月19日
「会社としての『共同制作物』であるから、職務著作なので、会社が著作権を持つ」=ということは、私が先に申し上げた「noteが独占使用できるイラストを制作してもらいたい」ということとほぼ同義で、少なくとも矛盾しないように思うのですが…https://t.co/RMTbpSHXcZ
— オオスキ トモコ (@cafe_petit) 2020年4月19日
「2つめのツイート、2は、ふつうに同じ画風の人が一杯いたら、リスクじゃないんですか?」についてですが、
— オオスキ トモコ (@cafe_petit) 2020年4月19日
「画風」もしくは「同じ画風」というのを、深津さんがどのように捉えているのか不明ですが、絵を描く者としての考えとしては、「似ている画風」はありますが、「同じ画風」は存在しません。
「似ている画風」であったとしても、人によって物事の解釈が違うため、「同じ絵」にはならないです。あまり絵を見慣れていない人は「同じ」と感じるかもしれませんが…同様に、「同じ画風」というのは存在しません。
— オオスキ トモコ (@cafe_petit) 2020年4月19日
(続)
アニメ番組を毎週、絵に注目して見てみるとわかりやすいかもしれませんが、一般的には人は「画風」というよりは「キャラクター設定」や「色彩設計」で、おそらく深津さんが仰るところの「同じ画風」と認識しているように思います。寄せて描こうとしても、けっこうブレるものです(続)
— オオスキ トモコ (@cafe_petit) 2020年4月19日
人間が制作するものにはどうしてもブレがあるものなので、今回、イラストレーション作成においてルールを策定したり、「作画監督」的なイラストレーターを採用したい、という意図なのかなあという理解でいたのですが…(続)
— オオスキ トモコ (@cafe_petit) 2020年4月19日
あと、仮に「同じ画風」が描ける人が複数人存在した場合、それは本当にリスクなのか?という考え方もあると思います。
— オオスキ トモコ (@cafe_petit) 2020年4月19日
今回イラストレーターとして採用したAさんを中心としたチームが、noteからチームとして独立して、イラストレーションプロダクションとしてその先もチームとして受注できるっていう可能性もありますよね。その場合、リスクどころかメリットだと考えます。
— オオスキ トモコ (@cafe_petit) 2020年4月19日
このように、イラストレーターの立場から考えれば、「お互いにリスク」でない可能性もあります。深津さんは今まで「イラストレーター側のリスク」のみを提示されています。「note側のリスク」は具体的に何だと認識されているのでしょうか。
— オオスキ トモコ (@cafe_petit) 2020年4月19日
『2・「noteが独占使用できること」は求めていないにもかかわらず、「その画風で描く人が何人も生まれる」ことが「お互いにリスク」なのはなぜか?』という質問に対して「ふつうに同じ画風の人が一杯いたら、リスクじゃないんですか?」というのは回答になっていません。
— オオスキ トモコ (@cafe_petit) 2020年4月19日
深津氏とのツイッターのやり取りは、以上で終わりました。
かなり長くやり取りさせていただきましたが、私は、深津氏が言っていることには、かなり曖昧な点が多いと感じました。
・そもそも「画風」というのは、具体的に何を指しているのか?
・「noteの画風」も「イラストレーションシステム」も作って欲しいけれども「イラストレーションシステム」は職務著作、でも「画風」は「住み分けはしたいですが、禁止できることでもない」、でも新しい画風を作るのは「あなたから画風をとりあげないため」。
住み分けはしたいですが、禁止できることでもないんじゃないでしょうか?
— 深津 貴之 / THE GUILD / note (@fladdict) 2020年4月19日
1つめのツイートの3、「実態のコンポーネットセット」(=「作り上げた『noteの画風』をベースに、よく使うアイテムをパーツ化したもの」?)がチームの共同制作物となる、というのは、これは会社としての「共同制作物」であるから、職務著作なので、会社が著作権を持つ という理解で良いでしょうか。
— オオスキ トモコ (@cafe_petit) 2020年4月19日
まとめると、
「『noteで制作したイラストレーションそのもの』や、『noteのイラストレーションシステム』は『チームの共同制作』として職務著作となるため、正社員イラストレーターには著作権が発生しない。従って著作物は退職後は使えないし、できれば社外ではタッチ(画風)も変えて欲しい」
というのが本音であるのに、
それを「『あなたの将来のことを考えて』新しい『画風』を開発してもらう」というような言い方で説明することは、かなり恩着せがましいのではないかという印象を受けました。
そもそも「退社後の個人活動」を縛ることは、法律的に可能なのでしょうか?
また、下記のような違和感を覚えました。
・一番引っかかるのは、イラストレーターの立場から考えれば、「お互いにリスク」でない可能性もあるにも関わらず、「イラストレーター側のリスク」のみを提示していること。「note側のリスク」を提示せず、「ふつうにリスク」という説明をしていること。
→私はツイートでも書きましたが、イラストレーター側から見ると、特に「同じ画風」の人が複数人いることには特にリスクがない
→「note側のリスク」が提示されていないために不明だが、仮に「note側のリスク」しかないことに対して、採用者に対し「あなたから画風をとりあげないため」という言い方をする意図を考えると、法では縛れない「画風」を「使わせない、使ってほしくない」前提で発言しているからではないか?
と考えると、とてもこれはクリエイター採用として、フェアな採用方法とは言えないし、採用記事の文面としても不適切なのでは?と感じました。
また、下記のような問題点があると感じました。
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・「画風」の定義がない
・「お互いにリスク」だからと言いながら、「イラストレーター側のリスク」のみが提示され、「note側のリスク」が具体的に提示されていない
・「noteが独占使用できること」は求めていないにもかかわらず、「『その画風で描く人が何人も生まれる』ことが『お互いにリスク』なのはなぜか?」という質問には答えていない
・「ふつうに同じ画風の人が一杯いたら、リスクじゃないんですか?」という回答はおかしい。深津氏の「ふつう」は私の「ふつう」ではない。コミュニケーションとして雑すぎるし、「社員採用」の詳細に対しての確認に対しての回答としても不適切である。
・「採用側」という、採用者に対して優位な立場にありながら、「あなたのため」というような言い方をすること自体が、一般的にはハラスメント的な印象を与えてしまうのでは?
・私に対して「ふつうに同じ画風の人が一杯いたら、リスクじゃないんですか?」(「俺の常識が世界の常識」と受け取られかねない)という回答のやり方をするということは、私のような単なる読者(1度だけ話したことがあるものの、ほぼ赤の他人)に対しても、こういった態度なのだから、身近な人や、特に職場の若い女性など、立場的に優位になるような相手には、いったい普段どういう接し方をしているのだろうかと、個人として、noteの職場環境がかなり心配になった。
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このやり方というのは、「 “だれもが創作をはじめ、続けられるようにする。“をミッション」とする会社の採用方法として、果たして適切なのかなあ?と疑問に感じました。
また、この「あなたのため」と言いながら、実質的にはクリエイターの権利を奪うような採用方法(社員としての職務著作の範囲以上の、プライベート・退職後までの権利を実質的に縛ってしまうようなやり方)が問題ないとされてしまい、広まることも、問題だと考えました。
しかしながら、ツイッターでは深津氏からの回答は得られなかったことと、上記のように、そもそも「採用側企業」が取る態度としても、いかがなものかと思い、しかも私は一応は面識があるので、ツイッター上でやりとりするのもなんだなと思い、直接連絡をとることにしました。
【5】徳力さんとやり取りしてわかった、深津氏の真意と、現在の「イラストレーター」が置かれる契約状況
まず、徳力さんに相談し、私が感じた、上記の問題点を伝えました。徳力さんから、深津さんと加藤社長に、事態を共有していただきました。
そして、下記のように、丁寧な謝罪をいただきました。
-------(徳力さん)-------
「このたびは、弊社の募集要項の説明がたりない面があり、ご心配をおかけしまして誠に申し訳ありませんでした。
ツイッター上でのやり取りでも、イラストレーターの方への配慮が足りない点があったことをお詫び致します。
イラストレーターの方との面接、また採用後の仕事のあり方については、オオスキさまにご指摘頂いた問題点も改めて確認し、イラストレーターの方に対して同様のハラスメントと取られてしまうようなことのないように、気をつけたいと思います。」
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そして、徳力さんのほうから、下記2点については回答いただきました。
A・「お互いにリスク」だからと言いながら、「イラストレーター側のリスク」のみが提示され、「note側のリスク」が具体的に提示されていない
-------(徳力さん)-------
双方のリスクとしては
・Zさんにはご自身の画風がnoteの画風と思い込まれたり、奪われたりするリスクがあり。
・noteとしてはZさん個人だけの能力に依存してしまうリスクがある
と考えています。
(Aのご質問の弊社のリスクは上記の後者になります)
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→「個性に強く依存したタッチ」を「noteの画風」のベースとしてしまうと
「仕事が属人的なものになってしまう」こと、それがnoteのリスク
ということ。なので標準化(=イラストレーションシステム化)したいと考えている、ということだとよくわかりました。
B・「noteが独占使用できること」は求めていないにもかかわらず、「『その画風で描く人が何人も生まれる』ことが『お互いにリスク』なのはなぜか?」という質問には答えていない
-------(徳力さん)-------
独占という言葉は非常に強いので、我々としては使うつもりはありませんが、オオスキさんがイメージされているように、当然Aさんとnoteで一緒に確立したイラストレーションシステムについては、業務上で生み出された職務著作物ですので、note側にその権利を持つ形でお願いすると思います。
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→これは私の認識通りで、「独占」という言葉を使いたくないということのようでした。
また、徳力さんとのやり取りの中で、
私としては
「そもそもnoteには、法的には退職後の活動は縛る権利自体がない。
従って、わざわざ応募者の退職後の活動にまで、求人時に社として言及するという行為は、品性の問題として図々しく、恩着せがましい。
なので、深津氏の記事は『クリエイター視点を重視する会社』の求人記事としてはふさわしくない」
という認識だったのですが、
noteとしては
「今回の職種では、(法律面以外で、業界慣習として)応募者の退職後の活動を縛られることがありえると考えている。それを縛らないために事前説明が必要」
という認識であるということがわかりました。
これもまた、「業界による契約慣習の違い」と、法律知識がないと理解できない話だと思いますので、少し私の身の上話を交えながら、解説させていただきます。
私はフリーランスになる前にはアルバイトや派遣社員として出版社(編集部と営業部)、通信キャリアのコンテンツ事業部門(WEB運用)、新聞社(WEB運用)の仕事をしながら、イラストの仕事を個人でも請けるという形でイラストレーターの仕事をしていました。WEBメディア運用の知識もありますが、基本的には紙媒体ベースの仕事が多かったですし、イラストレーターとしては、出版業界で育てられたと考えています。
一方、noteはwebサービス企業です。ですので、IT/WEB業界的な考え方で動いているようです。
「イラストレーター」といってもいろいろで、業界によって契約のやり方が違うようです。
出版業界や広告など、旧来のコンテンツ制作の世界では、基本的に行われるのは著作物使用契約で、「覚書」や「著作物使用許諾契約書」で仕事の契約をします。(何も言わなければ「著作権法」に準ずる形での仕事の契約となるのが慣例だと思います。)
私は15年くらい前からイラストレーターとして仕事をしているのですが、
最近、イラストレーション制作において、IT業界やソフトウェア業界ベースで作られたと思われる契約書が増えてきています。
それはかなりクリエイター不利な内容です。著作物使用許諾契約書ではなく、業務委託契約書だったり、十分な対価金額がないにもかかわらず、取引先制限があったり、著作権譲渡が前提となっていたりといった内容です。
私は、そういう契約書が来たら、問題点は全部修正してもらい、断られたら公正取引委員会に申告しています。
適正な対価がないのに、クリエイターの権利を奪うような契約を行うことは、下請法または独占禁止法違反となるからです。
↓参考:
公正取引委員会「コンテンツ取引と下請法」
www.jftc.go.jpまた、「編集者」を名乗っている方でも、著作権法や下請法、独占禁止法など、仕事の基本となる法律の知識がなく、完全に違法な内容の契約書を、内容を理解しないまま、平気で送ってくる方が結構います。
noteでも、正しい知識を持たない上に、きちんと専門家に取材もできないライター・イラストレーターが、中途半端な知識で、クリエイターの権利やお金を自ら捨てるような情報を「クリエイターのために!」みたいな感じで発信していたり、本が出たりしています。
具体的に言うとこの本です。
私はこれを読んで、「WEB業界のイラストレーターって、こんなにひどい条件で仕事しているのか!?」と、かなり驚きました。
しかも「クリエイターに有利な契約書を作りました!」いう契約書の中身が、ビックリするくらいクリエイター不利で、どんだけひどい環境なんだと驚きました。
徳力さんがおっしゃるには、私の想像以上にweb業界や、いわゆるITスタートアップでは権利の「全縛り」が慣例で、noteはそうならないように努力する、ということでした。
今回の、深津さんの「ふつうそうなんじゃないんですか」という態度は、「俺の常識が世界の常識」的な意味ではなくて、
「深津さんが主に仕事されている業界の常識、『ふつう』」で、WEB・ITスタートアップ業界では、私の想像以上に、クリエイターの権利は蔑ろにされており、それが「ふつう」である、ということのようでした。
恐ろしいことだと思いました。
【6】いまの日本では、法的根拠に基づいた「クリエイター視点」の記事が全く足りない
しかしながら、今回のようなことが起こってしまった原因としては、私自身にも理由があるとも思いました。
そもそも、私も含めて、多くのイラストレーターが、広く世間に向けて自分の職務について発信してこなかった、
もっと言えば、発注側ときちんとコミュニケーションを取ってこなかったことで、
深津さんのように「採用側」となる人が、悪気なくああいった恩着せがましいことを書けてしまう、
社長の加藤さんも出版業界出身だけれども問題点に気づかない、
という現実があるのだと認識しています。
私としても、その点については、反省の必要があると思いました。
いまの日本では、法的根拠に基づいた「クリエイター視点」の記事が、全く足りないのだなということが、よくわかりました。
今回、noteの一ユーザーでしかない私の意見を真摯に聞いていただき、対応してくださったことには、とても感謝しています。
私もこれからは、法的根拠に基づいた、イラストの仕事の依頼の仕方など、
「クリエイター視点」での記事を発信し、社会一般と広く相互理解を深められるよう、尽力していきたいと思います。
【2022/5/27 追記】「法的根拠に基づいた、イラストの仕事の依頼の仕方」の記事を作りました。「クリエイター視点」での法律記事も発信しています。
【2022/10/18 追記】「法的根拠に基づいた、イラストレーター視点の著作権契約」の記事を作りました!ぜひ多くの方に読んでいただきたいです。
こちらの記事を読んでいただければ、「画風を他で使わせない」という「雇用契約」に対し、私が違和感を感じた理由も理解できると思います。
雇用契約でなくても、独占禁止法または下請法違反に該当する可能性が強いように思います。
【7】弁護士に質問したところ、やはり深津氏の当初の提示条件は「公序良俗違反として無効」となる可能性が高いそう【2020/10/23追記】
(2020/10/23追記) 後日、この件について弁護士に質問したところ、雇用契約において、深津氏が最初にnoteで説明していたような「『noteの画風』を開発して社外ではその「画風」自体を使わせない」という部分は、「公序良俗違反として無効」となる可能性が高いそうです。詳細は、こちらの記事のコメント欄をご覧ください。
やはり、私の最初の違和感は正しかったようです。