TOMOKO OOSUKI

イラストレーター オオスキトモコのブログです。

【私の提出意見】「企業取引研究会報告書」に関する意見募集について(公正取引委員会・中小企業庁)

本日、「『企業取引研究会報告書』に関する意見募集について(公正取引委員会中小企業庁)」に意見を提出しました。

public-comment.e-gov.go.jp
これは、タイトルではわかりにくいですが、「下請法」の改正についての意見募集です。

www.jftc.go.jp
下請法は、以前の大幅改正からは約20年が経過しています。
今回は、そもそも「下請法」の名前も変えたほうがいいんじゃないかとか、かなり大きな改正についての意見募集となります。

私はイラストレーターなので、イラストレーターとしての意見となってしまいますが…
少しでも、ご自身で意見提出される方のご参考になればと思います。
もし「賛成!」と思っていただけた部分があれば、その部分はどうぞご利用ください。

私が提出した意見

私は、企業取引研究会報告書 P26~27
4) 知的財産・ノウハウの取引適正化に関する論点 についてのみ意見を書きました。(そういう提出の仕方もできます)
ほかは問題ないと思ったので…
以下が、実際に提出した意見です。

私は、フリーランスイラストレーターとして、20年以上の経験がある者です。
以下、実際の経験や、職業的知見を元に述べます。

企業取引研究会報告書 P26~27
4) 知的財産・ノウハウの取引適正化に関する論点 について
〈以下意見〉
ア 課題、イ 本研究会における主要な意見、ウ 解決の方向性、全体に同意であり、問題ないように思います。

「知的財産取引に関するガイドライン」を改訂するのであれば、クリエイティブ業界における著作権取引についても、詳しく記載して欲しいです。

プログラムの著作物と、美術の著作物(イラストレーション)では著作物の性質が全く異なるにも関わらず、その違いを企業の顧問弁護士または法務担当者が理解できておらず、安易な契約書ひな型の使い回しが行われているのではないかと感じることがあります。

こちらの報告書にもあるとおり、発注者側が無償、または同種・類似のイラストレーションの一般的な対価に比べ、比較して著しく低い金額で著作権の譲渡や著作者人格権の不行使を求めることは、独占禁止法・下請法・フリーランス法における「買いたたき」や「不当な経済上の利益の提供要請」に該当してくる(違法行為となる)可能性があります。(P26)

その一方、私が知る限りの現状としては、「知財専門の」弁護士や弁理士の大半(体感では9割以上)は企業向け法務の経験しかなく、個人のクリエイターの立場で法律の検討ができていません。具体的には、著作権法独占禁止法・下請法・フリーランス法を同時に検討することができていません。

著作権譲渡をしないと企業は安心して使えない」というようなことを、クリエイター向けセミナーで発信する弁護士を実際に見たことがあります。
また、文化庁の相談窓口(弁護士知財ネット所属の弁護士が担当)でも「著作権譲渡は当たり前(なのでそんなに反発する必要はない)」というような回答を受けた経験があります。

結果として、クリエイティブ制作取引において、企業側が本来の依頼業務で必要のない著作権の譲渡までも、かなり気軽に、かつ安価または無償で求める ということが、かなり一般的になっています。
弁護士・弁理士に限らず、上場企業の法務部員であっても、そのような行為が独占禁止法・下請法・フリーランス法違反となり得る可能性が高いことを、そもそも知らない人が多いのではないか、という印象を強く受けています。
つまり、違法状態の取引が「一般的」になってしまっているということです。

実際の調査結果を見ても、2024年5~6月時点でも「フリーランス法の内容を知らない」委託者が54.5%います。

参考:フリーランス取引の状況についての実態調査(法施行前の状況調査)結果 概要
令和6年10月18日
公正取引委員会
厚生労働省

https://www.jftc.go.jp/file/2024flsurvey.pdf


ウ 解決の方向性 に
"前回の知財取引の実態調査から時間も経過しており、また、調査内容も製造業に限られている。今後、幅広い業種を対象とした実態調査を改めて行い、調査結果を踏まえ、独占禁止法ガイドラインや下請法の運用基準の見直しにつなげることが必要である。また、この問題は「ルールを作って終わり」にしてはならない。ガイドラインで 示した内容が遵守されるような実効性のある取組も併せて講じていくべきである。"
とありましたが、まずはクリエイティブ業界に対しても実態調査を行っていただきたいです。
そして弁護士・弁理士・法務担当者に、「個人事業主フリーランスクリエイターの立場になって取引を考える」研修を行っていただきたいです。

昨年提出した"「生成AIを巡る競争」に関する情報・意見の募集について(公正取引委員会)"と、かぶってる部分が結構ありますが…

petitmatch.hatenablog.com
大事なことは、いろんなところに対して、何度も言ったほうがいいと思うので、
書いてみました。

★e-govから意見を出すとき、機種依存文字で引っかかる場合があるため、このツールでチェックしましょう(このツールでないと「波ダッシュ」が引っかかりません)

mrxray.on.coocan.jp

余談:「おわりに」がアツかった

この報告書はホンマによくできていて、そして「おわりに」がアツかったです。
この堅い報告書の最後に、こんなエモいメッセージがあるとは思っていなかった。

おわりに

「弱い者達が夕暮れ さらに弱い者をたたく その音が響きわたれば ブルースは加速していく 見えない自由がほしくて 見えない銃を撃ちまくる 本当の声を聞かせておくれよ」(作詞作曲:真島昌利、 1988 年 の THE BLUE HEARTS「TRAIN-TRAIN」からの引用)

今から30年ほど前にヒットした曲の一節である。今回、現代に生きる私たちが改めてこの歌詞を聞くとき、私たちに問いかけられ続けている課題があるのではないだろうか。

本研究会が議論をしてきたテーマにおいて「弱い者達」とは、企業規模の大小を問わず、商品やサービスの価値向上を追求し、顧客に対してその価値に見合う対価を訴求するという本筋での努力を避け、自社の商品やサービスの価格を据え置く原資を確保するため、取引上の「強い立場」を利用して立場の弱い「受注者」や「労働者」の仕事の価値を評価することなく、買いたたく者のことである。このような「弱い者達」が連鎖して出来上がるサプライチェーンが、果たして強い経済を生むのだろうか。

(〜中略〜)

今後、我が国経済がイノベーションの力を取り戻し、活力を維持し、発展していくためには、長い間に形成されてきた「デフレ型の商慣習」を見直す必要がある。そのためには、上記の政府における取組はもとより、事業者一人一人の意識や常識も変えていかなければならない。コンプライアンス法令遵守)は重要であるが、「下請法さえ守っていれば良い」という意識が仮にあるとすれば、それは事の本質を捉えていない。
一つ一つの取引が、合理的で、フェアなものかが問われている。そのような視点で改めて見直したとき、これまでの業界の「常識」は、これからの我が国経済にとっては「非常識」なものなのかもしれない。

「長い間このような条件で取引をしてきたから」という理由で、無意識に不合理な条件を取引先に押しつけてはいないだろうか。フェアな条件の下、工夫を重ねて新たな付加価値を生んだ者がその価値に見合った対価を享受できるような取引環境が求められている。事業者一人一人の自覚と不断の取組に強く期待したい。

[「企業取引研究会 報告書」P30-31 より引用、太字・赤字はオオスキによる強調]

https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2024/dec/241225_kigyotorihiki_1.pdf

この報告書はけっこうよくできていて、面白いと思うので、皆さんも読んでみてはいかがでしょうか!

youtu.be