この記事は、下の記事(前編)の続きです。
こちらの後編には、被害に対し、私が取った対応、今後考えられる対策、提案などを書きます。
【2・私が取った対応A・周囲の人への相談】
帰宅し、家族に事情を話し、相談しました。
やはりこれはおかしいと思ったので、周りで本を出したことがある人たちと、当時の所属団体の顧問弁護士にも相談しました。
最悪、相手側企業が経費を支払わず、会社側もしらばっくれ、裁判になる可能性を考えたからです。
また、編集者が「自分は『普通』だ。出版業界ではこれが『普通』で、あなたは『頭がいい世界』の人間だから『普通』が理解できないのだ」というようなことを言っていたので、それが本当なのか?ということを確認するため、実際に「本を出したことがある人」複数名に、メールで相談してみました。
いろいろな方の話を聞いてみると、
「よくある話、気にすんな、また他社に企画を持っていけばいいんだよ」
「出版社も余裕がないから、仕方ないんだよ。」
という方もいらっしゃったのですが、違う意見もいただきました。
「書籍の仕事は雑誌と比較すると、長く時間がかかり、編集者とも長期間の付き合いとなるので、そのように説明不足であったり、仕事なのに『察して欲しい』など、甘えた態度を取ってくるような、編集者としてのコミュニケーション能力が低い人とは、付き合うべきではない。」
「その人は本当に『編集者』なのか。もし本当に編集者であるなら、『編集者』を『原稿の運び屋』くらいに考えていて、今までの著者も、まともに相手をするのが面倒なので、『運び屋』としてしか扱ってこなかったのではないか?周りの人に『まともな人間』として扱われてこないまま、自分は『普通』と思って、年を取ってしまっている人なのでは?」
→これは私もそういう印象を受けていて、そもそも『編集』というものに対する完成度のレベル感が違いすぎると感じていました。
スケジュール感覚とか、時間に対する考え方も合わないですが
なんか根本的に「良いもの」と思う、本の内容の深さとか、
完成度のレベルに差がありすぎると思いました。
100点満点のテストでいうと、向こうは「自分の名前を漢字で書けた、わ~い。」レベルで満足していて、私は満点が普通 と言うくらいの
圧倒的な違いを感じていました。
いろいろとお話を伺って、それから、自分なりに考えてみました。
下記3点については、本当におかしな話だと思い、納得が行きませんでした。
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1・私が持ち込んだり、立てた企画ではなく、
向こうから声をかけてきて、かつ編集側の案で、
何のベースもないところから1から調べさせていること。
それを編集側は、無料であると認識していること。
2・事実を誤認させていることに対して、
コミュニケーションがうまくいかなかった原因を、
「会社が小さいから」「大手じゃないから」「オオスキさんは大手の人だから」とか、
編集者本人の責任を認めず、全部他のもののせいにしているところ
3・その上「あなたのような無名の人の本が、そう簡単に出るわけがない」などと、暴言を吐かれている。(他いろいろ)
仮にそれが事実であっても、こちらからお願いしたわけではなく、
向こうから「本出しましょう」とか声かけて来たのに、そんなこと言われる筋合いはない。
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その後、家族とも再び相談し、下記のような方針を決めました。
・取引先としては、こちらから切る形を取る。
・少なくとも、経費は回収する。
・今回の企画は、他社に持っていく。それを今後、問題としないとする言質を取る。
・もしかして、相手は、私のことを『友達』と勘違いしていて、気楽に呼び出したり、雑な態度をとってもいいと思っているのではないか?
少なくともこちらはそういう認識はしていないので、そう思われているとしたら、極めて迷惑である。あくまでこちらは「仕事を理由に」呼び出されたから、仕事として会っているだけ、ということを伝える。
あと、家族と、相手がどう出るかの複数パターンを想定して、交渉の練習をしました。
相手がどの段階まで受け入れるか、また反論されたらどうするのか、等、
シミュレーションし、ロールプレイングを行いました。
【3・私が取った対応B・弁護士への相談】
周囲の方へ相談し、家族と方針を決めて、想定問答の練習をしたのち、
企画についての流れは事実なのか、また、経費が本当に支払われるのか、作業料の請求は可能か を確認するため、編集長と本人宛に、確認メールを送りました。
それと同時に、弁護士にも、前編に書いた話の流れをまとめたものと、
編集長と本人宛に送ったメールを添付し、
「こういう流れで、私はこのように考えていて、このようにしようと思っているのですが、
1・相手側の、このような仕事の進め方は、法的に問題はないのでしょうか?
2・私がしようとしていることに、法的な正当性はありますか?」
ということを確認しました。
【4・私が取った対応C・相手側の上司(編集長)へ確認】
3で決めた方針をもとに、相手の編集長と交渉することにしました。
私は、この会社では、この問題の編集者のほか、相手の上司である、相手の会社の編集長とも直接お仕事をしたことがありました。なので連絡先を知っていましたし、直接、連絡ができる関係でした。
編集長に「確認させていただきたいことがあります」と、前編に書いた、起こった事実の報告と、下記のような確認事項を書いたメールを送りました。(CCで本人にも同時に送りました)
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確認させて頂きたいのは2点です。
1・このような仕事の進め方は、御社の中で一般的な進め方なのでしょうか。
もし、これが普通のやり方ということであれば、書籍に関しては、
私のスタイルとは合わないので、今後はお話を頂かなくて結構です。
2・(編集者)さんが仰った通り、調査・企画に対する経費は請求させていただきます。
また、企画が通っており、掲載料が支払われるという前提で、
調査をしておりました。そのため、今回企画が通らない(そもそも立ち上がっていない)というお話でしたので、
今回の、調査に対する作業料を請求させていただくことは可能でしょうか?
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翌日、編集長から電話がありました。
当然ながら、平謝りされました。
「(編集者)が言っていることは本当にあり得ない話で、
うちの会社を冒涜している。また、オオスキさんに対する対応は、社外の人に対する対応としてあり得ない。」と言われました。
「そうですよね~!!だからビックリしてしまって!!
(編集者)さんはそうおっしゃいましたけども、編集長とお仕事していて
いやいや、これが御社の『普通』ではないだろ~
と思ったんですよ!!
なので、確認させていただいたんです。
ところで、今回発生する価値と金銭についてですけども…」
という流れで、穏やかに話し、条件交渉ヘ話を向けました。
また、「おそらく彼は、『編集の仕事』と、『個人的な親しい関係』を、ごっちゃにして勘違いされているのではないでしょうか?
もし彼の言う通り、ほかの作家さんにも私と同様の態度で仕事をしているとしたら、被害は私だけに限らないということになりますので、大変なことだと思います。」ということを、強調して伝えました。
編集長からは、「オオスキさんと直接お会いして、お詫びしつつ
事情をきき、落としどころを見つけたいと考えてます」と言われたのですが、私としては、なんでそこにまた時間使わなきゃいかんのか…と思ったのと、実際本当に忙しかったので、お会いするのは、スケジュール上難しいです。と伝えて、
「編集長から謝って頂いたので、
このようなやり方は、会社として『普通』でないことがわかり、安心しました。
誠意も伝わりました。
ですので、メールにはあのように書きましたが、スケジュール拘束に対する料金や、調査料は今回はいただきません。
(編集者)さんからお伺いしている通り、企画は私のほうで引き上げる形で、他社に持って行かせて頂きます。また、御社では、同様の企画では本を出さない ということを約束して頂けますか?」
ということを伝えました。
「もちろんです。企画に関しては私達がどうこういう権利はございません」
と言われたので、
「ではそれをメールでもいいので、書面の形にして頂けますか?」
と伝えたところ、
「実は自分は企画についてよく知らないので、もし企画書があったら、それを送ってくれないか。それを元に、書面を作ります」と言われたので、
今までのメールのやりとりを全部送り、(編集者)さんに渡した資料が紙で1つあり、そちらも使わないようにお願い致します。
そちらの資料につきましては、破棄か、返却など処理はおまかせします。
と伝えました。
私が送ったメール等の資料をもとに、相手側会社が調査を行った結果、編集者は不誠実な言動や行為を認めました。
また、編集長の報告で、編集者が言っていた「企画会議はない」というのも、完全に嘘であることがわかりました。
つまり出版企画が通っておらず、「あくまで構想段階」であることを知りながら、それを隠して、こちらに作業させていたことになります。
これを弁護士に報告したところ、今回の編集者の行為は「偽罔的行為(人を騙すような行為。必ずしも詐欺とはイコールではありません)による営業権侵害」になる可能性があるということでした。
その後、相手側の編集長から、改めての謝罪と、今後の対応、相手の処分についてなど、詳細な報告のメールをいただき、私は編集長とも直で仕事をしていたので、編集長の誠意を汲むということで、謝罪を受け入れました。
金銭面では資料集めの経費のみ受け取り、本の企画は他社に持っていくということで合意しました。
その後、すぐに経費が振り込まれました。
【5・考察】
私の場合は、まだ本を書き始める段階になく、主に「迷惑行為」が被害のメインですので、この対応で良かったのではと今も考えています。
*弁護士への相談費用は、当時の所属団体では、会費に含まれていたので、この件では、弁護士費用は発生していません。なので私としては費用的ににはマイナスにはなっていないと考えています。
しかし本を書き始めていたり、完全に書き上げたのに本が出なくて、しかもお金払ってもらえない、セクハラパワハラも合わせて受けている、という方もいると思います。
私は当時から幸いにも顧問弁護士がいる団体に所属していたので、弁護士に相談することが容易にできたのですが、ほかにも相談先はあります。
しかしこの件での、私の精神的苦痛、屈辱感というのはけっこう強いもので、数年前に、フラッシュバックというか、思い出し怒りがあり(今回も箕輪氏の件で、思い出し怒りをし、その勢いでこの記事を書いています)その際には「ろうどう110番」に電話しました。
「ろうどう110番」は、「あの時どうすれば正解だったのか?」みたいな話でも聞いてくれます。相談先については下記の記事を参照ください。
箕輪氏の事件もそうですが、こういった事が起こる原因は、書籍の出版契約が「出版後」に行われるという慣習が強く影響していると考えます。
ギャラの不払いについては、男性も被害にあいますが、ギャラの不払いをごまかすため・または契約の曖昧さをごまかすために、
レイプをはじめとした性犯罪の被害を受ける、そこまで行かなくとも、
私が受けた被害のように、相手がこちらを精神的に追い詰めようとすることで、強引に自分の不誠実さをごまかし、不適切な行動や言い分を認めさせるために、セクハラや暴言を受けるというのは、女性に多い被害だと考えます。
こちらの記事にもありますが、
news.yahoo.co.jp「フリーランスが多く、やり取りが1対1になりやすい業界」であるため、そういったハラスメントが起こりやすい構造になっていると考えます。
【6・今後考えられる対策】
ツイッターで、弁護士さんが対策をつぶやかれていました。
ライターさんの未払い被害は非常に多いです。
— 海老澤美幸 ebisawa_miyuki (@ebisawa_miyuki) May 20, 2020
特に「本にするから」と言われて他の仕事を断って進めてきたけど、最終的には本にならず支払われなかったという被害は多い。
こうしたケースで悩ましいのは、書面が残っておらず、残っていても仕事として依頼されたのかが不明なパターンが多いことです。続
対策としては、
— 海老澤美幸 ebisawa_miyuki (@ebisawa_miyuki) May 20, 2020
・仕事を始める前に「依頼を受けて仕事を始めます」ということを明確にしておく
・金額や支払時期など条件を書面(メールやLINEでOK)にする
・報酬を前払いしてもらう(ハードル高いですが、初めての出版社の仕事は前払い、試し原稿はこの金額などルールを決めておくとよいです)
別に皆が皆そうという訳ではないけど、編集者の中には、自分に最終決定権があるかのように作家さんに説明しときながら、いざ都合が悪くなった時だけ、会社の上が言ってるので、などと言って逃げる人がいるのも確か。
— 弁護士 河野冬樹 (@kawano_lawyer) May 19, 2020
こういう相手には、もし編集者と原稿料など約束したことがあるならば、表見代理といって会社に請求できる場合や、無権代理人の責任として本人に請求できる場合があります。
— 弁護士 河野冬樹 (@kawano_lawyer) May 19, 2020
セクハラパワハラ問題も結構相談としては来ている、というか、そういったことを拒絶したことがきっかけで報酬が払われなくなったとか、自分の作品使って勝手なことやり始めたというパターンが多い印象。そういう時に担当者をかばうかどうかで会社の体質がなんとなく透けて見える。
— 弁護士 河野冬樹 (@kawano_lawyer) May 18, 2020
担当者じゃなく会社にいうと、結構担当者処分の上謝ってくるケースもあるし、そういうのは個人の問題なのかもしれないけど、一方で、上層部がもっと酷い対応してくるケースも多く、そういうのは会社自体の体質なんだろうと思ってしまう。
— 弁護士 河野冬樹 (@kawano_lawyer) May 18, 2020
いずれにせよこういう場合、会社にはハラスメントの慰謝料だけでなく、仕事に関する未払報酬や著作権侵害による損害賠償も併せて請求するのが効果的。
— 弁護士 河野冬樹 (@kawano_lawyer) May 18, 2020
上記の対策のほか、単発の記事やイラストの仕事でも確認書を作る、
「出版社に依頼されて」書籍の執筆をする際には、事前に
・企画会議が通るまでは作業しない
・スケジュールは保証しない、常に当方の都合優先
・最終打ち合わせから○日以上連絡がない場合は、他社に企画を持っていく
など、自分なりのルールを決めておき、それを最初の打ち合わせに相手に共有しておくなど、自衛策が必要な気がします…
私はこの事件以降、全ての仕事において確認書(契約書)を作成しています。
それ以降、こういった、ハラスメント系のトラブルは、全くありません。
【7・提案】
私は、出版業界にも、アニメ業界のように、一度、公正取引委員会による実態調査が入ったほうがいいと思っています。
今のままでは、真面目に仕事している人や、法律をきちんと守っている人・会社が報われません。
(平成21年1月23日)アニメーション産業に関する実態調査報告書(概要)
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/cyosa/cyosa-ryutsu/h21/090123.html
↓この調査の結果、アニメ業界には運用基準ができた
(平成28年12月14日)「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」の改正について
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h28/dec/161214_1.html
また、前述の小川たまかさんの記事にもありますが、フリーランスが多いことから、個人での対策にも限界があると思います。
今回の件を機に、公取委が調査に入ってくれることを期待します。
◇
今回の箕輪氏の件は、私にとっては、箕輪氏の年齢が30代前半であるということが、本当にショックでした。
私が被害にあったような、「古い世代」の男性ではなく、30代の若い男性でも、こういった「昔ながらの」立場を利用した不当な取引&セクハラを行うということがわかったからです。
今まで、こういうことをするのは、私より上の世代(私はいま40歳です)の人たちだと思っていました。
今30代ということは、あと30年は働くわけで、このレベル感の男性が、あと30年も労働社会に存在し続けるかと思うと、絶望的な気持ちになりました。
私は、こういったことは、次の世代には引き継いではいけないと思います。
私の経験談が、何かの役にたてば幸いです。